「おい」

広間の奥から鋭い声が飛んでくる。

「酒が足りねえ」

ザンザスだ。
彼はいつも通り、奥のテーブルに足を乗せて椅子に腰掛けていた。
今夜はどうやって招集したものか、ヴァリアーや黒曜のメンバーまで集まっているのである。

「あ、ちょっと待ってて」

綱吉の傍らから立ち上がった真奈がドアに向かいかけたのを、スクアーロが止めた。
自分が持っていたウイスキーのボトルを彼女の手に押し付ける。

「持ってってやれぇ」

「え、でも」

「いいから行け。酒は口実で、あいつは単にお前を呼び寄せたかっただけだぁ」

スクアーロは小さな声で耳打ちした。

「ストックは裏か?」

「うん、階段降りてドアを出た所。運べるだけ持って来ちゃっても平気だから」

ぽんと真奈の頭に手を置いて了承すると、スクアーロは広間から出て行った。
直ぐ様奥から声が飛んでくる。

「何してやがる。早く来い」

「はいはい」

真奈はウイスキーを持ってザンザスのもとへ向かった。

そこはちょっとした修羅場と化していた。
ザンザスと雲雀と骸が殺伐とした雰囲気の中、互いに険悪な表情で酒を煽っていたのである。

「ふぅん…随分強いみたいだね」

「クフフフ…そういう君こそ。なかなかの酒豪のようだ」

交わされる言葉こそ物騒なものではないが、とても酒を酌みかわすなどという雰囲気ではない。
よくよく見れば、辺りに転がる酒瓶の山々。
どうやらどちらも先に相手を潰すまで飲み続けるつもりでいるらしい。

そして、そんな二人に特に絡むでもなく、ザンザスは相変わらずマイペースに飲んでいるようだった。

「骸、大丈夫?」

「何がですか?僕は全然酔ってなどいませんよ」

「恭弥さん…」

「僕も問題ないよ。酔ってなんかいない」

酔っ払いはみんなそう言うんですよ。
真奈は心の中で呟いて、持っていたウイスキーをザンザスに渡した。

据わった目でお互いを睨みあう二人は気になったが、どちらも素直に忠告を受け入れるような男でないことはよくわかっていた。
困ったものである。



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