目の前では山本とスクアーロの戦いが繰り広げられている。
……はずなのだが、動体視力が特別優れているわけでもない真奈には、何がどうなっているのかさっぱりだった。
何となく勘で、二人の位置や今どっちが攻撃しているのかぐらいは分かるが、目では彼らの動きを捉えられない。

「見えなくて当然よ。一般人に捉えられる程度の動きしか出来ないんじゃヴァリアー失格だもの」

「そーそー。無駄な努力だって」

同僚が戦っているというのに、あまり興味がないのか、他のヴァリアー幹部達は真奈を取り囲んで宴会をはじめていた。
そもそもザンザスからして、持って来させた豪華な椅子にふんぞりかえって酒を飲んでいるのでそんなものなのかもしれない。
むしろスクアーロが気の毒に思えるほどだ。

「なあ、沢田家光って家だとどんな感じ?想像出来ねーんだけど」

「お父さん?お酒飲んで大の字になって寝て、お腹が空いたら『腹減ったー、メシー!』って起きて、ご飯食べてまたお酒飲んで寝てを繰り返してる感じ」

「なんだ。ボスと一緒じゃん」

「うちのボスの場合、そのローテーションの中に僕達部下への暴力が加わるけどね」

「母娘で似たような男に引っかかっちゃったのねぇ…」

「まだボスのモノになったわけじゃねーから真奈はセーフじゃね?」

「それも時間の問題じゃないかしら」

それぞれお菓子や飲み物を手に盛り上がった暗殺部隊の幹部達は好き勝手な事を言っている。

「あーあ、負けちゃったよ」

スクアーロ達がいる方を見てマーモンがため息をついた。
どうやら決着がついたらしい。
戦いを終えた山本は相変わらず爽やかで、スクアーロは悔しそうだが、弟子(?)の成長ぶりに感心している風でもあった。

「山本が勝って良かったな、真奈」

綱吉の言葉に「うん」と頷いたものの、真奈の表情は暗い。

「なんだかみんなに申し訳なくて…」

「真奈は悪くないだろ。そもそもこうなったのは父さんが変なこと言い出したせいなんだからさ」

綱吉が不満げに言った。
真奈のチョコを巡る争いということになっているが、要は大人達の妙な思惑に振り回されている形なのだ。
これまでも散々振り回されてきた綱吉としてはいい加減にしろよと思わずにいられない。

「その通りです」

「!」

聞こえてきた声に真奈がハッと顔をあげる。
いつの間にか辺りは濃い霧に包まれていた。
それほど遠くにいたわけではないはずなのに、ザンザス達の姿は霧の向こうに隠れてしまっていて見えない。

「君が思い悩む必要はありませんよ。こんな茶番は僕が終わらせます」

革手袋をはめた手が真奈の頬にそっと添えられる。
霧の中から現れた六道骸が真奈のすぐ目の前に立っていた。

「骸…」

名前を呟いた真奈に、骸の唇が、ふ、と甘くほどける。

「マフィアどもを倒して、君のチョコを手に入れるのは、この僕です」

「チョコ一つのためにどんだけーー!?」

綱吉の叫びは、消音効果がある霧にむなしくかき消された。



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