「奴の匣兵器を見たのか?」

スクアーロに問いかけられ、真奈は首を横に振った。

「たぶんあれは違うと思う。『これは見本だよ』って言ってたから、いつも白蘭が使っている本物じゃないと思う」

「まあそうよねぇ。敵の親分がそう簡単に手の内を見せてくれるわけがないもの」

腰に手をあてて立っていたルッスーリアが納得した顔で頷く。

「もし、白蘭が私に自分の匣兵器を見せるとしたら、例えば三段階変身する生き物だとすると、その最初の姿だけを見せるとか……とにかく、嘘はついてないけど真実でもない事だけ教えて、後で種明かしをして笑うんじゃないかな。『引っかかったね』って」

「性格が悪そうな男ですねー。人格が歪んだ人間ならヴァリアーにもいますけど。ほら、お仲間みたいですよセンパイ」

「蹴んぞ、カエル」

「蹴ってから言わないで下さいよー」

ベルに脛を蹴られたフランがぼやく。
ザンザスに促されて真奈は先を続けた。

「ボンゴレの事もそうだけど、匣兵器とかリングとかの未来の情報を私に教えた理由も、そんな情報を与えてもまったく自分は困らないっていう余裕を見せたかったって言うか……私をからかって楽しむためだけに教えてくれたんだと思ってる」

真奈は白蘭の笑顔を思い浮かべながら言った。

「あの人は…そういう人だから」

白蘭に、彼の指で食べさせられたマシュマロ。
口の中にあの甘い甘い味が蘇ってくる。
その感覚から意識を逸らそうと必死になっていた真奈は、ザンザスが奇妙な表情を浮かべて自分を見ていることに気が付かなかった。

『あの人はそういう人だから』

彼は真奈が言ったその言葉に引っかかっていたのだ。
それは、まるで──

「つまり、情報を整理すると、敵の大将は14歳の女子中学生にボールギャグ噛ませて革ベルトで拘束するド変態で、所持している匣兵器は不明、戦闘能力も不明、って事ですかー」

「ししっ、その言い方だと色んな意味でヤバい奴に聞こえるぜ」

「貴様ら、ふざけている場合か!!」

気負った様子もなく普段通り軽口を叩くフランとベルに、レヴィが生真面目に注意をとばす。

「白蘭の戦闘能力は謎に包まれている。どう戦うのか、どんな匣を使うのかも判明してねぇ」

壁に凭れたままスクアーロが言った。

「奴がこれまで直接敵と交戦したことがないせいもあるが、ここまで情報が出てこないのは何かあると見て間違いねぇなぁ」

「それこそ敵地に潜入して近づくぐらいしないと、実際にどれくらいの実力の持ち主なのかわからないってことよね」

ルッスーリアが立てた小指を頬にあてて首を傾げる。
敵地に潜入と聞いて、真奈ははっと顔を上げた。

(骸……!)

まさか、という思いだった。
だがそう考えれば辻褄は合う。
レオナルド・リッピとして白蘭の所に潜入している骸の目的は恐らく、未だ隠されたままの白蘭の能力を探ること。

純粋にボンゴレのために行っている行為とは思えないが、彼が今誰よりも危険に晒されているのは間違いない。

(骸……気をつけて……)

真奈は心の底から骸の無事を願った。



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