微かに明るくなった部屋の中で真奈が二度目に目が覚めたときは、かなり頭がすっきりしていた。
解熱剤の効用もあったのかもしれない。

「……ザンザス?」

いない事には気付いていたが、一応名前を呼んで確かめる。
やはり返事はなかった。
ベッドサイドのテーブルには、新しく用意さたらしい水のボトルと伏せたグラスが置かれている。

そうして視線を動かしても、もう寝る前にしていたような目眩はしなかった。
風邪などで出た熱ならむしろ解熱剤は使わないほうがいいのだが、今回はウイルス性の病気からくる発熱ではなかったので使用に踏み切ったのだろう。
そして、たぶんそれが良かったのだ。

(どうしよう……)

とりあえず起き上がろうと身を起こした真奈はギョッとした。
ベッドの脇、暗赤色の絨毯の上に巨大な白い獣が寝そべっていたからだ。

(ラ…ライオン…!?)

立派なたてがみはまさしくライオンのそれだが、全身の毛は見事なまでの純白で、トラに似た模様が浮き出ている。
獣は真奈を見る事もなく、『伏せ』の姿勢で真っ直ぐ前を見つめていた。

獣を踏まないように気をつけながら、そうっとベッドから足を下ろす。
毛足が長くてふかふかの絨毯は裸足の足の裏にくすぐったいくらいだった。

部屋の中にはドアが二つ。
たぶん近くにあるドアがトイレかバスルームで、部屋の向こう側に見えるのが出入口のドアだろう。
そうあたりをつけた真奈は出入口と思われる方のドアに向かって歩いていった。

ドアまであと少し。

その時、突然白い塊がさっとドアとの間に割って入ってきた。
それまで微動だにせず伏せていた獣が素早く起き上がり、真奈の行く手を遮るようにドアの前に立ちはだかったのだ。
知性と野生を感じさせる紅い瞳が真奈をじっと見据えている。

「…部屋から出ちゃダメってこと?」

何となくそう感じて問いかけてみるが、当然ながら相手は答えてはくれない。
でもたぶんきっとそういう事なのだ。
真奈がドアから離れると、獣はまた元の場所に戻って寝そべった。
大きな口を開けて欠伸をしている。

巨体に似合わぬ可愛い仕草に、真奈はくすっと笑って手を伸ばした。
背中をそっと撫でてみても、獣はピクッと耳を動かして反応しただけで、特に嫌がる素振りは見せなかった。

(わぁ…ふかふか…)

見るからに手触りが良さそうな毛並みの感触は想像以上だった。
よく手入れされているのだろう。清潔で指通りも滑らかだ。
獣が大人しくしているのを良いことに、真奈は抱きつくようにしてその毛並みに顔を埋めた。
お日様の匂いがする。

いい子いい子と頭を撫でてやると、獣は紅い双眸を細めて、グルグルと喉を鳴らした。



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