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トム・マールヴォロ・リドルJrは退屈しきっていた。

両親は彼をこの校長室に一人残し、ダンブルドアとともに何処かへ行ったきり戻って来ない。

周囲に飾られた無数の肖像画の中から興味津々といった様子で彼を見下ろしているホグワーツの歴代の校長達も、テーブルに置かれた不思議な品の数々も、止まり木に止まっている不死鳥も、彼の退屈をまぎらわせてはくれなかった。

父はともかく、母が傍にいないのは寂しい。
勿論、そんな事は口が裂けても言わないが。
彼は姿形ばかりか、プライドの高さまで父親そっくりだった。

ダンブルドアも、父に紹介された彼をしげしげと見つめたかと思うと、

「まさに生き写しじゃな」

などと呟いたくらいだ。
トムはその時の事を思い出して改めてムッとした。

「末の息子です」

そう言ってリドルは息子をダンブルドアに紹介した。
再会の挨拶が済んだ後の事だった。

「ほう……この子が──まさに生き写しじゃな」

キラキラ輝く水色の瞳がジュニアを見下ろす。
父親そっくりな少年は物怖じした様子もなく、真っ直ぐダンブルドアを見つめ返した。
ダンブルドアが父と同じく開心術の使い手である事は知っていたが、それを恐れて目を逸らしたら敗けだと思ったからである。

ダンブルドアは何がおかしいのか、実に嬉しそうな笑顔で何度も頷いてみせた。

「なるほど、なるほど。確かにトム・リドルの息子じゃ」

父親に似ていると指摘されるのは嫌いだったが、トムJrはそれに対して文句を言ったり不快な気持ちを顔に出したりはしなかった。
母の前で子供っぽいみっともない真似はしたくなかったのだ。

その母はというと、にこにこと嬉しそうに微笑んでいた。

「ね、そっくりでしょう? 子供達の中で一番似ているんですよ」

「ふむ。ホグワーツに入学した頃のトムを思い出すの」

ダンブルドアがしみじみとした口調でそう言った時、トムJrは傍らに立つ父の整った顔が微かに強ばったのを見逃さなかった。
大人として自制してはいるものの、父もこの老魔法使いが好きではないのだということがわかり、彼は内心ほくそえむ。
今度母に父とダンブルドアの関係を詳しく聞いてみよう。
上手くいけば父の弱味を握れるかもしれない。

「さて──ジュニア、わしは君のご両親と少々話し合わねばならぬ事がある。少しの間、この校長室で待っていて貰えるかな?」

「わかりました」

トムJrは素直に頷いた。
こうなるのは予想済みだったので、駄々をこねる必要性は感じなかった。
どれほど大人びたしっかりした子供であっても、大人同士の大事な会話には参加出来ない事があるのを彼はよく分かっていたのだ。

「では参るとしよう」

ダンブルドアに続いて両親が校長室を出て行くと、部屋はひっそりと静まりかえった。

不死鳥のフォークスがあくびをした拍子にポッと小さな炎を吐き出したほかには、変わった事も特に無し。

ホグワーツは今日も平和そのものだった。


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