2/2 


三人分の足音が静寂の中に響いている。
夏期休暇の最中という事もあり、校内に生徒の姿は見当たらない。
先に立って歩くダンブルドアの少し後ろをついて行きながら、なまえは辺りを見回した。
古めかしい頑堅な造りの壁も、赤々と燃える松明に照らし出された石床も。
全くと言って良いほど城内は変わっていないように見える。

胸がきゅんと締め付けられるような懐かしさを感じたなまえは、隣を歩く夫に身を寄せて微笑んだ。

「ホグワーツは全然変わっていませんね。私が学生の頃と同じ」

しみじみとした口調でなまえが言うと、先を歩くダンブルドアは朗らかに笑った。

「恐らくこの先もずっとホグワーツは変わらずここにあるじゃろう。多くの生徒達が学び、巣立っていったが、彼らと同じく魔法を学びたいと願う子供達がいる限り、そして、ここを我が家と慕う者がいる限りは、ホグワーツは決して無くなる事はないと思っておる」

なまえはリドルの端正な横顔をそっと見上げた。

今の彼でははない彼のことを思い出す。
あのリドルもまた、その生い立ちゆえにこのホグワーツを我が家と思っていた一人に違いない。
生まれ育った孤児院でさえも、両親の愛を知らずに育った彼の凍えた魂を温める事は叶わなかった。
ホグワーツに入学し、自らの出自を知る事で、やっと彼は自分の居場所を見つけたのだ。

今は──たぶん、今のリドルには居場所を作ってあげられたのではないかと思っている。
なまえと結婚して家庭を築き、家族の愛情とぬくもりを知った彼は、なまえが知っているかつての『トム・リドル』と比べて、見違えるほど穏やかな表情を見せるようになっていた。

「いつの世にも変わらぬものは存在する」

ダンブルドアは三階の廊下を抜け、大階段へと足を進めた。
なまえとリドルも後に続く。

「そういう君達も、あれから随分長い年月が経ったはずじゃが、若々しい姿のままではないかね?」

「それは……あっ!」

足を乗せた途端、回転し始めた階段にバランスを崩しそうになったなまえをリドルが危なげなく抱き支えた。

その様子をダンブルドアは微笑ましく見守っていた。
どうやら変わっていないのは外見だけではないらしい。
相変わらずの仲睦まじさに、これならば子沢山になるのも頷けるとダンブルドアは今更ながらに納得した。
彼らには七人の子供がいるのだ。

校長室に待たせている末っ子の為にも早く用事を済ませて両親を返してやらねばなるまい。
そう考えながら回転した階段を上り、四階へ到着したダンブルドアは、廊下の突き当たりの扉までやってきた。
そして、扉の前で立ち止まる。

ダンブルドアは背後のリドル夫妻を振り返った。

「事情はニコラスから聞いておるよ。だからこそ、是非とも話し合わねばならぬと思ったのじゃ。この先にある、"あの石"の最後の一つの使い道についてを」

「やはり、その件でしたか」

リドルが静かな声で呟く。


今日は1991年7月31日。
真夜中過ぎに訪れた嵐が嘘のように、空は晴れ渡り、澄みきっていた。
今日も暑い一日になりそうだ。


 戻る  
2/2

- ナノ -