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騒がしい列車の中で人にぶつからないように重たいトランクを押して進むのは一苦労だ。
両親の話では、完全な個室になっているのでなるべく早めに席を見つけたほうが良いということだった。

「きゃっ」

「あ、悪い!」

ドンッ、とばかりに凄い勢いで走ってきた男の子に体当たりされる。
危うくトランクごと跳ね飛ばされそうになったエリーは、後ろにいた誰かに抱きとめられた。

「ご、ごめんなさいっ」

背中に感じるのは、少年らしく細身だが締まった身体の感触。
トランクを支えている手とエリーの腹に回された手だけが見える。

振り返ると、背の高い黒髪の少年が立っていた。
全体重をかけてしまったのに、まるで大した事ではないというように涼しい顔をしている。

「席はまだ決まってないのか?」

エリーと彼女のトランクを交互に見て少年が言った。

「う、うん」

「僕もだ。丁度そこが空いているみたいだから入ろう」

そう言うと、返事を待たずに彼はエリーのトランクを空いている個室へ押し込んだ。
──腹に腕を回したままのエリーごと。

ピシャリと戸が閉められた音が後ろから聞こえてくる。
エリーは何故か逃げ場を失ってしまった小動物のような気分になった。
彼女に座席に座るよう視線で促して、少年もその向かいに座る。

「僕は、トム・リドル。トム・リドルJrだ。お前の名前は?」

「エリー……エリー・スネイプ」


発車を知らせる汽笛が鳴った。


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