2/2 


複雑な生い立ちでありながらも、彼はよく懐いてくれている。
養母といっても、正確にはなまえはトムの後見人のようなもので、書類上ではアルバス・ダンブルドアが彼の保護者ということになっているのだった。

「だから早く帰ろう」
「うん…そうね」

トムがなまえの手を引いて歩いていく。
いつの間にか随分と力が強くなっている。
加減してくれてこれなのだから、もしかすると、本気になったらもう力では敵わないのではないだろうか。
どんどん大きくなって、背もきっと高くなる。
自分よりもずっと高くなって──少年から男へと成長していくのだ。

ふと、近くの路地に目を向けたなまえは、そこに一匹の黒猫がいるのを見つけた。
闇に紛れるような漆黒の色をしたその猫は、紅い瞳でじっとこちらを見つめている。
なまえは無意識のうちに胸元へと手をあてていた。
壊れた逆転時計が下げられている場所へと。

「母さん?」

「あ、ごめんなさい。何でもないの」

トムがなまえの視線を辿り、黒猫を見つけた。
猫となまえを見比べた彼は、再び黒猫へと視線を向けた。
その瞳が、すうっと冷たく細められる。

「あの猫がどうかしたの?」

小さな唇から紡がれたのは驚くほど冷ややかな声音だった。

「え、ううん! 本当に何でもないの。可愛いなと思って」

「でも、悲しそうな顔をしてた」

トムはまだ猫を睨みつけている。
悲しそう?
なまえは首を傾げた。
そんな顔をしていた自覚はなかった。
チリン、と鈴を鳴らして黒猫が闇へと身を翻す。
消え失せるようにして見えなくなったその姿を見送って、なまえはトムへと微笑みかけた。

「さあ、行きましょう」

トムは納得いかなさそうな顔でなまえを見上げたが、頷いてまた歩き出した。


 戻る  
2/2

- ナノ -