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『1998.5.7』

医務室のベッドの上で上半身を起こして座りながら予言者新聞の日付を確認するたび、この数日の間に最早お馴染みとなった奇妙な違和感がなまえの胸を支配する。

気持ちが時間に追いついていない。
まるで自分一人だけ過去に取り残されてしまったかのようだった。
心の中にぽっかりと空いた空白。
そこにあるべき記憶は一体どこへ消えてしまったのだろう?

医務室のベッドの上で一日の大半を過ごす内にわかったことはこうだ。
まずは、ダンブルドアの死後、このホグワーツで何か大変な事が起こったらしいということ。
そしてそれはどうやら闇の帝王に関係している事柄であったらしいということ。
そして何故かなまえにはその間の記憶がないということ。

強いショックを受けたせいだろうと校医は言っていたけれど、本当にそうなのかどうか怪しいものだ。
マクゴナガルもマダム・ポンフリーも、腫れ物を触るように至極慎重になまえに接していた。
その態度は巧妙に何かを隠しているようになまえには思えた。

それに、スネイプだ。
目覚めた時、なまえの傍らにいたのはスネイプだった。
ひどく憔悴した様子でなまえの顔を覗き込んでいた彼は、慎重に言葉を選びながら尋ねてきた。

「どこまで覚えている」と。

それでなまえは気付いたのだった。
ここ暫くの間の記憶がないことに。


「気分はどうかね?」

「大丈夫です。元気が有り余っているくらいです」

見舞いに訪れたスネイプにそう答えると、いまだ疲労の色の濃い男の顔に僅かな笑みがのぼった。
もともと血色の良くないスネイプではあったが、今は文字通り病的なまでに優れない顔色をしている。
実際こうして医務室で静養するべきなのはなまえなどよりもスネイプのほうなのではないかと思うくらいだ。

「先生、まだ寮に戻っちゃダメですか?」

何気なく聞いた質問にスネイプの顔からたちまち笑みが消え去る。

「もう少し待ちたまえ。寮は──ホグワーツの中はまだ完全に元通りとはいえぬ状況にある。それに君には休養が必要だ」

「じゃあ、せめて部屋に荷物を取りに行きたいんですが……」

「必要な物があれば持って来させよう。何を取ってくれば良いのかここに書いてくれればいい」

(……そうきたか)

メモ用の羊皮紙を差し出したスネイプに、過保護というよりも、どうあっても医務室から出すわけには行かない何らかの事情があるのを察して、なまえはしぶしぶ羊皮紙を受け取った。
医務室に備えつけてあった羽ペンで持って来て貰いたい品物をそこに書きつける。


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