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猫。
それはホグワーツに持ち込めるペットの中でも、特に女生徒に人気のあるペットだ。

普通に考えて、ヒキガエルを可愛がる女の子はあまりいない。

梟は梟小屋で寝泊まりする事になるし、長い寮生活の中で良き友人として身近に置くならば、やはり猫が一番だろう。

スリザリン寮においても、談話室で宿題をやったり雑談したりしている主人の膝や足元で寛ぐ猫の姿がよく見かけられた。
ミリセント・ブルストロードの猫もその内の一匹である。
そして、勿論、なまえの黒猫トムも。


「ああ…嘘でしょ、信じられない…!」

そう呻いたきり、ミリセントは絶句した。
彼女の愛猫のジュディは、呆然とする主人の前に寝そべり、出産を終えたばかりの母猫らしい満足げな表情で子猫に乳を与えている。
本来であれば、「可愛い〜!」などという歓声が上がってもおかしくない状況であるにも関わらず、当の飼い主がショック状態である為に、とてもはしゃげるような雰囲気ではなく、辺りには重苦しい空気が立ち込めていた。

「…最近、太ったなとは思っていたの」

ようやくミリセントが口を開いた。
でも、まだ目は虚ろなままだ。

「でも、まさか妊娠してたなんて……」

なまえは、ミリセントの猫のジュディと、その母乳を無心に吸っている子猫達をどうしたものかと思いながら眺めた。
母猫そっくりの模様の子猫に混じって、数匹の真っ黒な猫がいるから、父猫はたぶん黒猫なのだろう。
このところ、やけにアオアオ鳴いて煩かったジュディを、ミリセントは就寝時には必ず寝室から出して眠っていた。
だから、相手さえいれば交尾の機会は幾らでもあったはずだ。

「相手は黒猫ね」

パンジーがぽつりと口にした言葉に、なまえは慌てて首を振って否定した。

「ち、違うわっ!絶対トムじゃない!」

「なによ。そんなのわからないじゃない。それに、スリザリン寮にいる猫で、黒猫はあんたの猫だけなのよ」

一番身近にいる猫を疑うのは当然と言えば当然。
パンジーはすっかりトムが父親だと決めてかかっているようだ。

「違うってば!だって、トムは──」

普通の猫ではないのだと言いかけて、はたと口をつぐむ。
なんと説明すればいいのだろう?
夜には人の姿に戻った彼と隠れて逢い引きしています、とか?

──いや、そんな事を説明出来るはずがない。
しかし、言葉を無くしたなまえに対してパンジーは追求の手を緩めなかった。

「トムは?なんなの?何かあるならはっきり言いなさいよ」

先ほどから問題になっている張本人は、周囲の騒ぎなど知らぬ顔で、暖炉前のソファの上で悠々と寝そべっている。

「とっ、とにかく、絶対トムじゃないわっ!」

「あっ、ちょっと!待ちなさい!」

なまえはトムをソファから抱き上げると談話室から脱走した。

通常、発情期に悩ましい声をあげているのはメス猫だ。
メス猫の発情期は交尾していなければ三ヶ月に一度くらいでやってくる。
オス猫は、発情したメス猫の声や匂いを嗅ぐ事で発情する。
つまり、周囲のメス猫が発情しないとオス猫に発情期は来ない。
もしも妊娠したメス猫がいるとすれば、その猫に接する機会があったオス猫を疑うのは当然だ。
──だが、それは、あくまでオス猫が普通の猫だった場合の話である。


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