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「──それで」

スネイプはなまえの目を見つめながら、手元の書物をパタンと閉じた。
その表情からは、読書の邪魔をされた苛立ちは窺えない。

「我輩に何をしろと?」

「あの…血液か何かで親猫を特定出来る薬か何かがあれば、分けて頂きたいと思ったんです」

一通り事件のあらましを説明したなまえは、スネイプにそう本題を切り出した。
マグルの世界でいうところのDNA鑑定のようなものが出来れば、パンジーの疑いも晴れるはずだ。
談話室を飛び出したなまえは、真っ直ぐこのスネイプの私室へと駆け込んだのだった。
他に頼れる人物が思いつかなかったのである。

「特殊な薬液に毛髪を浸し、血縁関係にあるかどうかを鑑定する事は可能だ」

スネイプはなまえの腕の中の黒猫を気にしながらも、淡々とした口調で答えを与えた。
ただし、と付け加える。

「今すぐに、というのは無理だ。薬を調合するのに一晩はかかる」

「それでも構いません。お願いします、スネイプ先生」

「分かった。では、明日の放課後、我輩の部屋に来たまえ。その時までに渡せるよう用意しておこう」

「はい、有難うございます!」

ほっと安堵して礼を述べると、なまえはお茶の誘いを断ってスネイプの私室を後にした。
これで、証明する為の準備は出来た。
後は本人からはっきり否定の言葉を聞くだけだ。
地下牢から正面玄関ホールに上がり、そこから更に、大階段、動く階段、と続けざまに駆け上がって、8階に向かった。

『バカのバーナバス』の向かい側の石壁の前で、目を閉じてウロウロと行ったり来たりする姿は、誰か通りがかった生徒が見たとしたら、さぞかし奇妙な光景だっただろう。
そして、石壁に突如現れた扉を見て、更に仰天したはずだ。
『必要の部屋』を知る生徒は殆どいない。
だが、一度その存在と使い方を知ってしまえば、これほど便利な部屋は他に無かった。
なまえにとっては誰にも見られずにトムと逢える(勿論、"逢う"だけで済む訳ではない)、貴重な場所なのだ。
石壁の前を三回往復したなまえは、そこに現れた扉の前で改めて辺りを見回すと、そっと扉を開き、中へと入っていった。


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