何かが起こりそうな予感がしてゾクゾクする。 そして、そんな風に感じる時には決まって事件が起こるものだ。 ホグワーツ特急の車窓には不吉なものなど露とも感じさせないのどかな田園風景が広がっているが、間違いない。 「じゃあ、聞くけどね、なまえ。僕らがホグワーツに入学して以来、事件が起こらなかった年があったかい?」 ドラコは読んでいた本をポンと座席に投げ捨てて、呆れ顔で言った。 「最初はあの忌々しいポッターと賢者の石の騒ぎ。そして去年は、秘密の部屋だ」 なまえの膝の上で丸くなっていた黒猫がピクリと耳を動かす。 半ば無意識の内にその背を撫でてやりながら、なまえは辛抱強くドラコに言い聞かせた。 「違うの。今年は本当に嫌な予感がするの」 「嫌な予感ねぇ…どっちにしろ、ポッターが危険に晒されるような事件なら願ったりだ」 読書に飽きたらしいドラコはなまえに軽く笑って見せると、座席から立ち上がった。 クラッブとゴイルも、のそのそと巨大を揺すってそれに続く。 「あまり神経質になるなよ、なまえ。僕らは…あー──その辺のウスノロが恐れているような闇の魔法使いに攻撃される心配はないんだから。そうだろ?」 意味ありげに言って髪を撫でたドラコに、なまえはそれでも不安を拭いきれずに食い下がった。 「でも、アズカバンを脱獄した囚人がホグワーツに来たら?」 ドラコは一瞬ギョッとしたように目を見開いたが、直ぐに気を取り直して苦笑を浮かべた。 「それなら心配ないよ。狙われるとしたら、どうせポッターさ。僕はいっそ奴が始末してくれたほうがいいと思ってる」 「どういうこと?」 「大臣が父上に話しているのを聞いたんだ。ブラックはポッターの両親を殺す為の手引きをしたって。それで、生き残ったハリー・ポッターを狙ってるんだそうだ」 「どうしてハリーを狙うの?」 「さあ。それはわからないよ。そこまでは聞いてないからね」 ドラコは肩を竦めると、クラッブとゴイルに目配せして、コンパートメントのドアに向かった。 「ドラコ? 何処に行くの?」 「決まってるだろ。お偉い英雄様と、クジ運に恵まれた赤毛のご友人のところさ」 ──またか。 ドラコ達を吐き出してぴしゃりと閉まったドアを見て、なまえは溜め息をついた。 よくもまあ、毎度懲りずにからかいに行くものだ。 もしかして本当はハリーに構って貰いたいのではないかと思うくらいだった。 一年生の時、ハリーを自分の側に引き込もうと誘った時に手酷くあしらわれたのが実はショックだったのかもしれない。 『生き残った男の子の友人』というステイタスや、マルフォイ家はハリー・ポッターさえも従えるのだという見栄。 そういった野心もあったに違いないが、実は本当に友達になりたかったのではないだろうか? どちらにしても、天敵とも呼べる間柄になってしまった今、ドラコは絶対にそんなことを認めないだろう。 今は、ハリーに負けたくないという意地のほうが勝っているからだ。 今までちやほやされてきた自分より注目を集めるのが気に入らないとばかりに、張り合おうとするドラコがちょっと可愛いと思わないでもなかった。 |