ドラコ達を見送ったなまえは、ふとコンパートメントの中が先ほどまでより薄暗くなっていることに気が付いた。 窓を見ると、いつの間にか空には厚い雲が垂れ込め、雨が降り出している。 一人取り残されたなまえはもう一度深い溜め息をついた。 ドラコ達は暫く戻って来ないだろうし、パンジー達のコンパートメントに行くのも何だか躊躇われる。 それに、ホグズミード駅まではまだかかるだろう。 一人では手持ち無沙汰なので、なまえはドラコがさっき投げ出した本を手に取ってみた。 少々怪しげな呪文や、えげつない呪いばかり載っている本だが、読んでみると意外に面白い。 そうする内に汽車はどんどん北へ向かって進んでいき、雨足は更に強くなっていった。 今では外は真っ暗だ。 通路や荷物棚に下がったランプに次々と明かりが灯る。 簡単なルーモスの魔法さえ使えない今のなまえにとっては唯一の光源だ。 ゆらゆらと頼りなげに揺れるランプでは少々心許ないが仕方ない。 なまえが「あれ?」と顔を上げたのは、もうすぐ駅に着こうかという、しかし、それにはまだ少し早いのではと思う辺りで、汽車が速度を落とし始めた時だった。 ゆっくりと速度を落とした汽車は、やがてガクンと振動して完全に止まってしまった。 「なに……?」 何か問題でも起こったのかと立ち上がる。 その腕を誰かが掴んで止めた。 「外に出るな」 「トム…!」 黒猫からヒトの姿に戻ったリドルが、なまえの腕を掴んだまま静かにドアを見据えている。 なまえは急に不安になってリドルに身を寄せた。 真紅の瞳はドアの向こうを見透かすようにしたまま微動だにしない。 「何? 何かあったの?」 その時、何処かで重い物が落ちるような音がしたかと思うと、一斉に全ての明かりが消えてしまった。 たちまち車内は暗闇に沈み込む。 他のコンパートメントでも混乱に陥っているのだろう。 ドアが開く音に、慌ただしい足音。 あちこちで悲鳴が上がるのが聞こえた。 |