ビクリと身を竦めたなまえだったが、その人物を確認すると、ほっと安堵の溜め息をついた。 黒髪に、紅い瞳。夜目にもわかる、ハンサムな顔立ち。 背の高い青年が、薄く笑んでこちらを見下ろしている。 「トム…」 「随分派手に遊んでいるようだな。そうでもない者もいるが」 リドルは歌うように言って、その眼差しを夜空へと向ける。 「見ろ」 促されてなまえは空を見上げた。 すると、それほど離れていない場所から、緑色をした何かが空に向かって打ち上げられた。 真っ黒な空がその部分だけ不気味に輝く。 それは巨大な髑髏だった。 舌のように口から蛇が這い出している髑髏の模様だ。 たちまち辺りから立て続けに悲鳴が巻き起こる。 恐怖に満ちた人々の叫び声が暗い森に響き渡った。 闇の印だ、と誰かが叫んでいる。 異様な雰囲気に怯えてリドルに身を寄せると、彼は空気の中に漂う何かに気付いたように、ふ、と笑った。 人の気配が迫ってくる。 「戻るぞ。ルシウスに見つかりたくはないだろう」 どこから持ってきたのか、リドルはフード付きの黒いマントを羽織ってなまえを抱き上げた。 万人の恐怖の対象である恐ろしい男のはずなのに、その腕はあたたかく、とても優しい。 守られている感じがして安心してしまう。 「面白いことになりそうだ」 テントに向かって小道を戻りながら、リドルが密やかに呟いたのが聞こえた。 |