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はじめに感じたのは違和感だった。
何か変だ。
何かがおかしい。

なまえはベッドの上に起き上がって耳を澄ませた。

ナルシッサは隣の部屋で寝ているはずだが、そちらからは変わった気配は感じられない。
視線を巡らせると、窓から外を見つめている小さな影が目に入った。

「トム…?」

振り向いた黒猫は紅い瞳を細めてなまえを見遣り、しなやかな動きで床の上に降り立った。
チラリとこちらを流して見て、足音も立てずに部屋の入口に向かう。
そうして、そのままするりとドアの隙間から出ていった。

なまえは少し迷ったが、夜着の上に上着を羽織ってその後を追った。
そっと足音を忍ばせてテントの外に出る。
その途端、周囲の森の中に響く怒号と悲鳴にドキッとした。

暗い森のところどころで光る、赤い光。
杖明かりだろうか。
数と方角からして、大勢の人間が右往左往しているようだ。

間違いない。
何かが起こっている。

恐らくはルシウスがテントに細工していたのだ。
だから今まで外の物音が中に届かなかったのだろう。

「待って、トム!」

黒猫は暗い森の中を身軽に走っていく。
まるで行くべき場所があるかのように。
なまえは必死でその後を追った。

走りながら、先ほどの光は杖明かりだけではなかったらしい、となまえは気付いた。
あちこちでテントが燃えている。
そればかりか、時々、魔法で吹き飛ばされたテントが宙に舞うのが見えた。
競技場へ続く小道を照らしていたランタンは既に消え、騒然とする暗闇の中を、沢山の人間が逃げ惑っている。

「向こうだ!」

直ぐ近くから男が叫ぶ声が聞こえた。
息がきれている。

「マグルが宙吊りにされてる! 仮面の連中がやったんだ!」

「あれは死喰人だ」

別の声が重々しく言った。
二人はそのまま暴動が起こっていると思われる方角へ走って行く。

「死喰人…?」

立ち止まったなまえの心臓は、走り続けていたせいで激しく鳴っていた。
男達の話から、仮面をつけた者達がマグルを宙吊りにして嬲っているらしいということは分かった。
そして、恐らくは魔法省の役人などがそれを止めようとしているのだ。
では、森の中を逃げているのは、騒ぎに巻き込まれた観戦客達か。

ふと、話し声が聞こえた気がして、なまえは木立の向こうに視線を向けた。
不気味に枝を伸ばした木々と闇しか見えない。
様子を見に行こうと足を踏み出したなまえの腕を、誰かが掴んで止めた。


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