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「どうして僕がこんなこと……」

森に入ってもドラコはまだブツブツ文句を言っていた。
もしかすると、そうやって怒りを保つことで恐怖を誤魔化そうとしているのかもしれない。

なまえと目があうとハリーは軽く肩を竦めた。
女の子の君のほうがドラコよりずっと勇敢だねと、緑の目が語っている。

そんな三人の傍らを、ハグリッドの飼い犬のファングが歩いていた。
ハグリッドの話では、この黒いボアハウンドは、図体は大きいくせに相当な臆病者であるらしい。
時々なまえにじゃれついたりしているところを見ると、散歩か何かに連れてきて貰っているのだと勘違いしているようだ。

三人と一匹で暗い森の中を暫く進んで行くと、突然視界が開けた。

「見て…!」

ハリーが呟き、ドラコが息を飲む。
一瞬地面の一部が白く輝いているように見えたが、直ぐにそれが何であるのか分かった。
ユニコーンだ。

「ひどい…」

銀色の血溜まりの中に横たわるユニコーンに近付こうとしたその時、闇の奥からズルズルと滑るような音が聞こえてきた。

立ちすくむ三人の前に現れたのは、頭からフードを被った“何か”だった。
地面を這ってユニコーンに近付いたかと思うと、それは傷口に顔を埋めて血を啜り始めた。

…ぴちゃ、ずる…
気味の悪い音が真っ暗な森の中に響く。

ドラコが絶叫して逃げ出していくのが分かっても、なまえはまだ動けずにいた。
ユニコーンの血を啜る“それ”に目が釘付けになっていたのだ。
フードに包まれた“それ”が顔を上げる。
ユニコーンの血を滴らせた“それ”が、ハリーからなまえへと視線を移した時、なまえは確かに“それ”を知っていると感じた。
だが、何かが違う。
なまえが知る者にはあるはずの何かが“それ”にはなかった。
大切な何かが。
決定的にして唯一のその違いが、なまえを混乱させていた。


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