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レストランでの食事が終わる頃には、しとしとと冷たい霧雨が降り始めていた。

「寒くないかね?」

「大丈夫」

スマートな仕草でごく自然に促されて、クロリスはルシウスの腕に手を縋らせる。
普通に恋人をエスコートする男性のように振る舞う父に、羞恥と戸惑いを覚えながら。

夜の街を寄り添って歩くと、静寂の中に靴音だけが高く響いた。

「あの…母さまは?」

尋ねた瞬間、ほんの一瞬だけ頬が強張ったように見えたが、ルシウスは直ぐに優しげな微笑を浮かべて傍らのクロリスを見下ろした。

「ナルシッサは出掛けている──姉と一緒に。今夜は戻らないそうだ」

「おば様と…?」

今度はクロリスが言葉に詰まる番だった。
ナルシッサには姉が二人いる。
だが、ブラック家の次女でありながらマグル生まれの男に嫁いだアンドロメダとは交流を絶って久しい。
となると、残りは一人──ベラトリックスしかいない。
『予言者新聞』にベラをはじめとする死喰人達がアズカバンを脱獄したと書かれていたのは本当だったようだ。

「私達は……ある重要な計画を進めている最中でね。その前に、彼女達姉妹がゆっくり再会を楽しめるようにとの特別な配慮をして下さったのだ」

誰が、とは言わない。
クロリスもそれ以上聞き返す事はなく、ただ黙って頷いた。
本当は危険な事はして欲しくないが、それでは闇の帝王に逆らう事になってしまう。
例えそれがどれほど危険な任務であろうと、命令に背くような真似がルシウスに出来るはずが無い。
だからこその突然の呼び出しだったのだと、クロリスは泣きそうな思いでルシウスの真意を理解した。
恐らくは、任務の結果によっては二度と娘と会えなくなるかもしれない──そう危惧したのだろう。

ふとルシウスが足を止める。

「今夜は、ここに宿をとってある」

そう告げるルシウスの視線の先には、重厚な雰囲気の漂う古めかしい建物が建っていた。

「父さま…」

ルシウスの腕にぎゅっと縋りつき、僅かの間見つめあう。
クロリスは涙の滲む瞳を固く閉じると、温かく力強い男の腕にその顔を埋(うず)めた。


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