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はあっ、と吐き出す息が白い。
まだ九月だというのに、ホグワーツの夜はひどく冷え込んだ。
まだあどけない顔をした生徒達は、自然と身を寄せあって少しでも暖を取ろうとしている。

水曜日の真夜中。
週に一度、天文学の授業の為だけにこの塔の扉は開かれる。
普段は立ち入る事の出来ない場所だけに、生徒達は興味津々といった様子で辺りを見回したが、別段物珍しいものがある訳ではなく、次第に退屈を持て余す者も出てきているようだった。

星を見、宙(そら)を見、その神秘のもたらす様々な事象を学ぶ。
それが天文学の授業だ。
まだ幼い子供にはそれなりに面白くはあるが、だからこそ、これといった刺激もない内容の授業なのである。

「クロリス。寒くはないかい?」

手元の星座図と星空とを交互に眺めていたクロリスの肩に、ふわりと暖かな布が掛けられる。
振り返ると、ルシウスが優しい微笑を浮かべて立っていた。
ルシウスは七年生。
彼ら最年長の七年生は、今月だけ一年と合同で天文学の授業を行う事になっていた。
天文学は真夜中に行われる授業なので、他の教科に比べて、ホグワーツの生活に慣れていない一年生の戸惑いも強い。
年長者が年若い後輩の面倒を見てやる事がこの合同授業の目的なのだ。

「大丈夫、平気よ兄さま」

「授業は面白い?」

「ええ、とっても!」

ルシウスは笑って、クロリスの肩に掛けてやった自分のマントでその小さな体を包み込んだ。
少し離れた場所で書き取りをしているセブルスがチラチラとこちらを気にしている。
彼は授業の内容を一つも聞き漏らすまいと、先生の近くに陣取って講義に耳を傾けていた。

「月って凄いのね、兄さま。それにとても綺麗…」

実のところ、難しい話はあまりよくわからなかったのだが、月と地球の関係には非常に魅せられるものをクロリスは感じていた。

つかず、離れず。
太陽の光を受けて淡く白銀色に輝く姿は、何処かこの冷たい美貌を持つ従兄を連想させた。


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