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「まるでずっと地上を見守っているみたい」

「それはまた…女の子らしいロマンティックな見方だね」

ルシウスが絹糸のような髪を揺らしてクスリと笑う。
何人かの女生徒がこちらを振り返り、頬を染めながらヒソヒソと何やら言葉を交わすと、また夜空へと視線を戻した。
彼女達もまた、この月光に似た男に魅せられているのだろう。
だが、月が地球にそうであるように、ルシウスはクロリスだけを見つめている。

クロリスはむず痒いような、それでいて胸がじわりと熱くなるような喜びを感じた。

「知っているかい?月の自転周期は地球の公転周期と完全に同期しているんだ。つまり、この地上からは永遠に月の裏側を観る事は出来ない。見えるのは、あくまで月の一面だけなんだよ」

「えっ…」

思いもかけぬ言葉に、ルシウスを見上げる。

幼い頃から見知っているはずの男の顔。
それでも、その唇に浮かぶ微笑には奇妙に胸を騒がせる何かが含まれているようで、全く見知らぬ男にも見えた。

「そう……確かに、君の言う通り、月は地球を見守っているのかもしれないね。きっと恋をしているのだろう」

甘い口説き文句にも似た台詞に、さっきの女の子達がクスクスと忍び笑いを漏らす。
しかし、クロリスはじっとルシウスの顔を見つめていた。

「地球に叶わぬ恋をして、決して近付く事も触れる事も出来ずに……己の昏い欲望を裏側に隠して、優しく地上の夜を照らし続けているんだ」

「でも、兄さま」

クロリスはルシウスの手をとって微笑んだ。
何処か切なげな表情をしている従兄が悲しくて、ひどく愛おしく感じられたからだ。

「本当は、地球も月に恋をしているのかもしれないわ」

ルシウスの端整な顔に一瞬動揺が走り、それから、柔らかな微笑みが満ちていく。

引力を感じて惹かれているのは、月か、地球か。

月の裏側に何が隠されていようとも、案外地球は気にしないかもしれない。
その暗黒をも容易く受け入れてしまうのかもしれない。

いつかルシウスの暗黒面を知ることがあったとしても、クロリスの彼への愛情が決して変わりはしないように。


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