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「やれやれ…私を試すつもりだったのか?悪い子だね」

「だって…」

抱き上げられた状態で優しく微笑まれて小言を言われても叱られている実感はあまりなかったが、クロリスはしおらしくうつ向いた。
だが、その顎をルシウスのしなやかな指が掬い上げて顔を上げさせる。

「例えどれだけ同じ姿をした人間を並べられようとも、私が君を間違えるはずがない。これで良くわかっただろう?満足したかな?」

嬉しそうに微笑んでコクリと頷いたクロリスを抱いたまま、ルシウスは歩き出した。

「さあ、アフタヌーンティーにしよう。冷たいアイスティーと、バニラアイスをかけたアップル・クランブルを用意しているからね」
「やっぱり!さっきからずっと良い匂いがしてたから、本当は早く食べたかったの」

「そう言うと思って、もうドビーに言いつけてある。もっとも、アイスは溶けてしまっただろうから、新しい物を用意させなければいけないな」

やがて、涼しい風の吹くテラスで、優雅なアフタヌーンティーが始まった。

霜がつく寸前まで冷やしたグラスに、オレンジのスライスを入れて、ルシウスが濃いめに淹れたアイスティーを注ぐ。
デザートのアップル・クランブルは、くし切りにした林檎にクランブル(バターと小麦粉と少しの砂糖を混ぜ合わせたもの)をたっぷりかけて、オーブンで焼いたものだ。
ドビーが厨房から運んで来た熱々の出来たてにのそれに、バニラアイスをかけると、クロリスはフォークで口に運んで頬張った。
たちまち、狐色に焼き上がった香ばしいクランブルの香りと、柔らかく甘酸っぱい林檎の味が口中に広がる。
豪華で繊細な造りのデザートに比べれば素朴と言える味なのだが、一度食べると病みつきになるほど美味しい。

「美味しいかい?沢山お食べ。紅茶のお代わりは?」

「有難う、兄さま!頂きます」

まるで執事か給仕係のように恭しくクロリスの世話を焼くルシウスは、見ているこちらが蕩けるほど甘美な微笑を浮かべている。
愛する従妹と過ごすこの午後のひとときは、彼にとって至福の時間なのだ。

そうして、主人達が幸せいっぱいのティータイムを楽しんでいる頃。
一番の功労者であるドビーもまた、厨房の片隅の椅子で『お嬢様』からの土産である菓子を頬張りながら、感激の涙を流していたのだった。

将来、いかなる恐ろしい事件が起こるとしても、今このマルフォイ邸にはただ幸福のみが満ちていた。


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