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その日、ルシウスは午前中の内に煩雑な書類作成の仕事をすっかり済ませてしまい、その後は普段一日の大半を過ごしている書斎ではなく二階の客間と一階の大広間を何度となく往復していた。
今日は彼が溺愛している従妹のクロリスが遊びに来る予定になっているのだ。

屋敷下僕妖精のドビーにこの日何度目かの準備の確認をさせ、昼過ぎに独身の青年貴族らしい簡単な昼食をとると、やはりピンクよりも白がいいかと思い直して、ドビーを呼びつけ、客間の淡いベビーピンクのベッドカバーを純白のものに取り替えさせた。
どちらも最近買い求めたばかりの上等の品で、しかも今朝早くにセッティングしたばかりだったにも関わらず、だ。

花を飾り、贈り物の箱をベッドに乗せ、アフタヌーンティーの準備をして、愛しい少女の到着を待つ。

だから、玄関ホールに客人の来訪を知らせる涼やかなベルの音が響き渡った時には、ルシウスは数十秒も待たせずに、扉を開いて迎え入れたのだが──

「こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは」

そこに佇むクロリスは一人ではなかった。

同じ顔が三つ並んでいる。
挨拶の言葉を告げる愛らしい声も、全く同じ。
しかし、ルシウスは動じた風もなく、直ぐに優しい微笑を口許に広げると、迷う素振りも見せずに真ん中の少女をふわりと抱き上げた。

「良く来たね、クロリス。会いたかったよ」

驚かせるつもりが、逆にびっくりした顔をしている少女の柔らかな頬に唇を寄せて。
待ちわびていた温もりをしっかりと腕の中に収めると、ルシウスはその可憐な肢体から立ち上る甘い香りを肺いっぱいに吸い込んで味わったのだった。

「どうして?どうしてわかったの?」

目論見が外れた悔しさよりも驚きで瞳を真ん丸にしながら、唇を寄せてくる従兄にクロリスが問いかける。
クロリスの作戦では、驚いて戸惑うルシウスの姿を楽しむ予定だったのに…。

「ポリジュース薬だろう? さては、セブルスの仕業か」

「そう、セブに頼んで作って貰って……そ、そうじゃなくて!」

首筋に顔を埋めて唇を押しあてているルシウスの顔を両手で引き剥がし、正面から美しい顔と見つめ合う形にしたクロリスは、眉根を寄せて酷薄な色をした瞳と目を合わせる。

「どうして直ぐに本物がわかったの?せっかく服まで同じにしたのに…」

ルシウスは、蚊帳の外へと追いやられ、いたたまれない様子でいる二人の『少女』へと目をやった。
なるほど。確かにお揃いの服装をしている。
そわそわと落ち着きなく目を見交わしている二人に、ルシウスは冷たい微笑を向けた。

「お前達。クラッブとゴイルか?」

二人は申し訳なさそうな顔で頷いた。
ルシウスの微笑が冷ややかなものから苦笑に変わる。
この二人ならば、彼女に頼まれれば嫌とは言えないだろう。
不興を買えばルシウスに言いつけられるとでも思ったか。
そう考えると、流石に責める気にはなれなかった。

「悪ふざけに付き合わせてすまなかったな。もう行っていいぞ。どうせ、もう直ぐ薬も切れる頃だろう」

ポリジュース薬の効き目は短い。
ルシウスがそう告げると、クラッブとゴイルは明らかにほっとした顔をして、モゴモゴと謝罪の言葉を口にしながら、玄関前からそそくさと立ち去った。


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