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「兄さま、何か私に出来る事はない?」

セブルスがいなくなり、マダムが隣室で作業をしているのを確認すると、ルシウスはクロリスの手を自らの手で包み込んだ。

「そうだな……一つだけ、君にしか出来ない事がある」

「私にしか出来ない事…?」

「そうだ」

半身を起こした状態で、クロリスを寝台に引き上げる。

「に、兄さまっ!?」

シーツ越しに膝に抱き上げられて、クロリスは慌てた。
間近に見る顔に浮かぶ微笑を見て、抗議の言葉を飲み込む。

「キスをしてくれないか?」

まるで熱い湯でもかけられたように、クロリスの顔が赤く染まる。
シーツの白さ、包帯の白、ルシウスの白い顔。
それと対象的に、クロリスは熱くなる頬がきっと真っ赤になっているに違いないと思いながら、おずおずとルシウスに顔を寄せた。
優雅に伏せられた銀糸の睫毛を間近に見つめながら、笑みを刻んだままの唇に、自らの震える唇をそっと重ねる。

───好き……

触れた唇の感触と、胸に満ちていく想いに、クロリスはようやくルシウスへの恋心をはっきりと自覚した。
優しくされるたびに感じていた寂しさ。
物足りなさ。
あれは、従兄として守るべき存在である従妹としてしか見てもらえていないのではないかという不安だったのだ。

ルシウスの腕が上がり、クロリスの髪を撫でつけるようにして後頭部を支える。
口付けの甘さに僅かに開いた唇を舐め、ルシウスの舌が口中へ滑り込む。
キス自体は初めてではなかった。
戯れのようなそれは、幼い頃から繰り返してきた二人のスキンシップとなっていたから。
だが、これは違う。
初めて味わう、本当の意味での口付けに、クロリスの体が震える。
唇が離れた後も、ぼうっと夢見心地のままルシウスを見つめるクロリスに、彼は愛おしくてたまらないといったように微笑んだ。

「愛しているよ、クロリス……ずっと、一人の女性として、君を愛してきた…」

初恋を自覚したその日、クロリスの初恋は成就した。


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