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「クロリス、大丈夫か?」

緊張した声が耳元に響く。
ルシウスだった。
咄嗟に飛び出したルシウスが、クロリスの前方に割り込み、身を呈して庇ったのだ。

「う、うん、大丈夫。有難う、兄さ──」

ほっとして礼を言いかけたクロリスの顔が強張り、さっと青ざめる。

「兄さま!!」

観客席からも次々と悲鳴が上がった。
ルシウスの端正な顔の左半分が、赤くぬめる血で濡れている。
クロリスを庇った時に、飛び散った足場の破片で切ったのだろう。
こめかみ近くにざっくりと開いた傷から鮮血が流れ出して、美しい顔を血で染めていた。
医務室へ、と言おうとしたクロリスの目の前を、金色の光が走った。
レイブンクローの選手達は、アクシデントに呆然としていて、まだスニッチに気付いていない。
ルシウスの手が安心させるようにクロリスの頬に触れた。
血に濡れて尚、美しい顔が、優しく微笑む。

「行きなさい」

周囲に聞こえないよう小さな声で囁かれた言葉に、一瞬迷い……クロリスは、スニッチ目がけて飛び出した。

先を飛ぶ輝きに手を伸ばし、羽をはためかせるそれをしっかりと掴む。

「取ったーー!!クロリス・マルフォイ選手がスニッチを取りました!!」

同時に試合終了の合図が響き、スリザリンの観客席から割れるような歓声が巻き起こった。
どの生徒もみな立ち上がり、両手を振り回したり拍手を打ち鳴らして喜びの声を上げている。

「クロリス、良く頑張ったね」

側に来たルシウスに頭を撫でられ、クロリスは血に染まった美貌を見上げて泣き出した。

「見た目ほど深刻な怪我ではありませんから、すぐに治るでしょう。ただ、深く切っているから出血が酷いようですね」

競技場に降りるなり、駆け寄って来たセブルスに促されて、ルシウスは医務室へ運ばれた。
勝利をもたらした余韻に酔う事も無く、クロリスは心配そうに寝台の横に立って付き添っていた。

「兄さま、痛い…?大丈夫?」

普段から色の白い顔が大量の血を失ったせいで更に青白く見える。
マダム・ポンフリーは大した事は無いと言ったものの、木片に抉られた傷口は痛々しく、白い額に包帯が巻かれた後も、クロリスはまだ涙ぐんでルシウスを見つめていた。

「心配いらないよ。マダムもすぐに治ると言っていただろう?」

「でも、私のせいで…」

「あれは事故だよ。君が気にする事はない。それに、君を庇ったのは、私が自分でした事なのだから」

目の端に滲んだ涙を指で拭って、ルシウスは優しく微笑んでみせた。
横で様子を見ていたセブルスが、苦笑めいた笑みを浮かべてクロリスの肩に手をのせる。

「大丈夫だ、クロリス。この程度でどうにかなるような人じゃない」

アイスブルーの瞳が不穏に細められるのを見て、セブルスは肩をすくめた。
彼の言葉ではなく、クロリスに触れた事を咎める眼差しだ。
こんな時でも独占欲を隠しもしない男に、セブルスは「先に戻っている」とクロリスに声を掛けて、医務室を出ていった。


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