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「クロリス。クロリス、どこだ?」

年齢の割には大人びている彼らしくない、余裕のない声。

マルフォイ家にある装飾庭園の一角に作られた生垣迷路の中を、銀髪の少年が心配顔で彷徨い歩いていている姿が容易に想像出来、クロリスはクスクス笑い声を漏らした。

「クロリス?そこにいるのか?」

ルシウスがさっとそちらを振り向く。
だが、生垣に遮られて愛しい従妹の元へはいけない。
ルシウスは生垣の隙間に垣間見えるクロリスに手を差し延べた。

「クロリス、頼むから、もう出て来てくれ」

降参だ、と弱りきったような声がおかしくて、クロリスは生垣の向こうから、ルシウスと同じように手を伸ばした。
手と手が絡みあう。

「まったく…心配させて楽しむなんて、悪い子だな」

触れた手の温もりに安堵の溜め息をつきながら、ルシウスが苦笑する。

「変な兄さま。ただの隠れんぼなのに」

「いいから、早く出てきなさい」

彼女にはわかるまい。
その姿が見えなくなる事が、どれほど恐ろしいと感じるか。
いつか、この手をすり抜けて遠くへ行ってしまうのではないかという、不安。
来年ホグワーツ入学を控えたルシウスは、クロリスと離れなければいけないと考えただけで気が狂いそうだった。

「クロリス」

慣れた動きで生垣を回ってクロリスが駆けて来ると、ルシウスはその身体を抱き締めた。
逃がさないよう、しっかりと。

「兄さま、苦しい…」

8歳になったばかりのクロリスの小さな身体には、年上の従兄の抱擁は苦しくて、ぱしぱしと軽く彼の背中を叩いて抗議する。
ルシウスは腕の力を緩めると、片手でクロリスの顎を持ち上げて、その桜色の唇に自らの唇を重ねた。
それは親愛の情を表すものではなく、明らかな欲望に基づく行為。
だが、幼い少女には、まだ赤子だった頃から繰り返されてきたその行為の意味がまだよく理解出来ていない。

ついばむように軽く、だが執拗に繰り返される口付けに、クロリスは、ただクスクスとくすぐったそうに笑っていた。


生まれ落ちたばかりの彼女を見た瞬間から恋い焦がれていた。
花が大地に寄り添うように
鳥が大空を恋うように
それは至極当然の理のように思えた。


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