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「レギュラス…レギュラス…!」

クロリスが呼んでいる。
殆ど泣きそうな声で自分を呼ぶ彼女を、彼女を……

「ご主人様!レギュラス様…!!」

今度はキイキイと喚く声。
それが、屋敷しもべ妖精のクリーチャーが自分を呼ぶ声だという事に気がついたレギュラスは、かろうじて意識を取り戻した。

そうだ、今のはただの記憶だ。
ここはあのパーティー会場ではない。
クロリスもいない。
暗く寒く冷たい洞窟の中だ。
闇の帝王がクリーチャーを使って隠させたというロケットを偽物にすり替えるために──ヴォルデモートを出し抜くために、いま自分はここにいるのだった。

レギュラスの前には水を湛えた水盤がある。
この水を飲み干すことでしかロケットはすり替えられない。

恐怖で発狂しそうになるような恐ろしい幻覚を見るという罠であったならばどれほど良かったか。
ヴォルデモートは、これを飲む者の最悪の記憶達を呼び覚まし、後悔や劣等感による苦痛を味わうように仕向けたのだ。

「…クロリス…君が心配していた通りだったよ……」

力無く呟いて、震える手でカップを握り直す。
悔恨の言葉は、傍らにいるクリーチャーにはただの意味のないうわ言に聞こえたかもしれない。
だが、それで良かった。

激しい頭痛を訴える頭を抱え、ふらつきながらレギュラスは手にしていたカップを水盤の中にくぐらせた。
そうして汲み上げた水を飲みほす。

あと少しだ。もう少しで水盤の中身は空になる。
次々と襲いくる幻覚に悩まされながらも、かろうじて正気を保ちながらレギュラスは水を飲み続けた。

ついに最後まで兄への劣等感から逃れられず、家族への情に縛られ続け、なんとしても自分を評価して欲しいと願う気持ちさえも利用され、ようやくその事に気がついた自分に出来る、これが唯一の事だった。
一矢報いて死ねるのならば、少なくとも犬死によりはましだ。

レギュラスは暗い自嘲の笑みを浮かべて、命がけで目的を果たした。

「クリーチャー……そのロケットを頼む……帰ったら、必ず壊してくれ……」

レギュラス様!と叫ぶ声が水音にかき消される。

これでいい。
ロケットがすり替えられていた事に気がついた時の闇の帝王の反応を想像すると、重苦しく胸を圧迫していたものが軽くなっていく気がした。
だから、これでいい。

レギュラスの脳裏にあの美しいプラチナブロンドが蘇る。

暗く冷たい水の中に沈んでいきながら、レギュラスはあの哀れな屋敷しもべ妖精が使命を果たせるようにと心の底から切に願った。


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