飲み物を取って来るから、と席を外したルシウスを待つ間、クロリスとレギュラスはたわいのない会話を交わして過ごした。 学校では殆ど会話らしい会話を交わした事は無かったのだが、意外なほど話が弾む。 しかし、ホグワーツの話から将来の話になった途端、それまでの和やかな雰囲気は一転した。 「じゃあ、本当に死喰人になるの?」 「ああ。そのつもりだ。ホグワーツを卒業したら正式に申し出ようと思っている」 初めは警戒していたレギュラスも、どうせ辺りは闇の魔法使いばかりなのだからと開き直ったようで、今では声を潜める事もしていない。 「セブルスもよ。卒業したら死喰人に入るって……止めたのに、全然聞いてくれないの」 「どうして? "あの人"の思想は素晴らしいものだし、その手伝いをしたいと願うのは、魔法族の将来を考えれば当然の事だと思うけど」 心配そうな顔をするクロリスに、レギュラスは真剣そのものの声音で語る。 「でも、危険でしょう?もし捕まったりしたら……」 「闇祓いのこと? 心配いらないよ。僕もスネイプもそんな連中に捕まるようなヘマはしないさ。それに、魔法界をより良い世界に変える為には、多少の危険は仕方ないことだからね」 熱意をこめて語るレギュラスの姿が、まるで崇高な使命に酔っている人間のように見えて、クロリスは堪らなく心配だった。 セブルスはセブルスで、五年生の時に起こったある事件以来、頑なに死喰人に拘るようになっていて、クロリスの心配の種になっている。 どうして自分の周りの男の人はみな死喰人になりたがるのだろう、と、少なからず困惑してもいた。 彼らの姿は、昏く燃え上がる炎に惹かれる蝶にも似ていて、余計にクロリスの不安を煽るのだ。 「二人とも楽しんでいるようだね。あまりに仲が良いので少し妬けてしまったほどだよ」 細いシャンパングラスを手に戻って来たルシウスが、笑みを浮かべて二人を交互に見遣る。 レギュラスは恐縮した様子で差し出されたグラスを受け取った。 クロリスはレギュラスが言葉を失って青ざめているのを見てとると、軽く従兄を睨んだ。 「兄さま、レギュラスをからかわないで」 「冗談だ。大丈夫、ちゃんとわかっているよ」 ふふ、と笑って、ルシウスは渇いた喉をレモネードで潤すクロリスの髪に指を絡める。 氷の色をした瞳を甘く細めて少女の髪を梳くルシウスの姿を直視していられなくて、レギュラスは手にしたグラスへと視線を落とした。 グラスになみなみと注がれている赤い液体は赤ワインのようだ。 レギュラスは何故だかそれを口にするのを躊躇した。 「飲みたまえ」 ルシウスが促す。 婚約者である少女の髪を相変わらず指先で弄びながら。 「遠慮はいらない。さあ──」 ここで飲まなければ失礼になる。 そもそも断る理由はないはずなのだ。 それなのに、どうしてこんなにも恐ろしく感じてしまうのだろうか。 ──馬鹿馬鹿しい。 たかが酒じゃないか。 胸に覚えた感情と奇妙な恐怖を打ち消すように、そう己を奮い立たせると、レギュラスは一気にグラスの中身を煽った。 途端に世界が回り始める。 ぐるぐると回る世界に合わせて、招待客達の笑い声もまたレギュラスの周りを回っているように聞こえた。 |