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鍵がかかっているドアに行き当たった少女は、もどかしく杖を取り出した。

「アロホモーラ!」

何度も後ろを振り返り、解錠の呪文に応えたドアが開くか開かないかのうちに、その向こうに広がる闇に飛び出した。
迷宮のような城を、息を切らせて走る。
そんな少女を追う者は、急がず焦らず、ローブの上に纏ったマントの裾を優雅に翻しながら、悠然とした足取りで追っていた。
まるで、何処へ逃げようとも、必ず見つけられる自信があるとでも言うかのように。

「なまえ、そっちは行き止まりだ。──そうそう、左に逃げれば大丈夫。その先には階段があるが、暗いから足元に気を付けろ」

歌うように囁く声の主は、トム・リドル。
その真紅の瞳は、獲物を追い詰める狩人の喜びに輝いていた。

「転ぶなよ。せっかくの可愛い顔に傷でも作っては大変だからな」

優しく、優しく。
甘く耳に心地よい声が追って来る。
だが、捕まればどうなるかは、火を見るより明らかだ。
荒い息に混ざって嗚咽が漏れる。

「泣いているのか?可哀想に…おいで、なまえ。疲れたのならば、もう身を任せてしまえばいい」

その時、天啓のように閃いた。
──ダンブルドア!
そうだ、先生のところに行って訴えれば──!

そう考えて、階段を駆け降りようとした途端、疲れきっていたなまえは足を踏み外してしまった。
落ちる、と思った体は、しかし、背後から伸びてきた腕に支えられて難を逃れた。
耳元で溜め息が聞こえる。

「だから、気を付けろと言っただろう」

金縛りにあったように凍りついたなまえに、いつの間にか直ぐ後ろに来ていたリドルは唇を寄せて囁いた。
震える唇をついばみながら、リドルの手が杖を取り出してなまえに向け…──


「チェックメイト」


真夜中の鬼ごっこの終わりを告げた。

あとほんのもう少しで逃げられたのに。
悔やんでも悔やみきれない。
鬼に捕まったなまえは、彼の私室に連れ去られた。

「着眼点は良かった」

リドルが楽しそうに笑う。
実際、楽しんでいるのだろう。
ただ諦めてしまうのも、ただ呆気なく捕まるのもつまらない。
絶対に逃げられないと知っていて尚も必死に逃げ惑う様を観察するのが、彼を喜ばせるのだから。

「あの無能な校長でなく、ダンブルドアに助けを求めようと考えたのは正解だ。確かに奴ならお前を救う事が出来ただろう」

長い指が背骨をなぞる。
肌を滑るその感触に、シーツに俯伏せたままなまえはびくりと体を震わせた。
低い笑い声が聞こえて、項に唇が押しあてられる。

「残念だったな」

囁いた唇から赤い舌が覗き、濡れた舌先が首筋に透ける血管をそっとなぞるように舐めた。
そのままきつく吸い付けば、虜の証の赤い花びらが刻まれる。
甘い絶望にすすり泣きを漏らす少女をリドルは優しく愛してやった。
優しく。


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