最初の悲鳴が聞こえた時には、どうせ寮生同士の小競り合いか何かだろうと思っていた。 学年末に近付くとともに、寮杯を巡る争いはますます激化する。 だが、どんな些細な争いであろうと、監督生である以上、駆け付けない訳にはいかない。 しかし── 内心くだらないと思いつつも、長い脚で大股に回廊を渡りきろうとしていたリドルは、もう一度響いた悲鳴を耳にした途端、制服の上に羽織った黒いマントの裾を翻して走り出した。 何人かの生徒が空き教室の中へと入っていくのを見て、直ぐ後に続く。 「た、大変だ──早く先生を…!」 蒼白な顔で慌てる生徒の前の床には血溜まりが出来ていた。 その中央には、黒髪の男子生徒がうつ伏せに倒れており、ピクリとも動かない。 そして、その側には、床にへたり込んで震えている少女の姿…。 その光景を見たリドルは一瞬で状況を理解した。 呆然とした表情で啜り泣いている少女──なまえに、駆け付けた生徒の一人が手を伸ばす。 「触るな!」 激しい叱責にビクッと手を止めた彼を押し退けて、リドルは床に座り込んだなまえを自分の腕の中に引き寄せた。 なまえの頭を自分の胸に押し付けるようにして、しっかりと抱き竦める。 「落ち着け。僕ならここにいる。あれはボガートだ」 涙に濡れたなまえの瞳がリドルを見上げて、何事か呟こうと唇を震わせた。 揺れる眼差しと目線を合わせて、もう一度、ゆっくり言葉を区切って言い聞かせる。 「ただの真似妖怪だ。お前の最も恐れているものに姿を変えただけで、本物じゃない」 リドルは杖を取り出した。 血溜まりに伏せていた体がぶるぶると身震いしたかと思うと、体の輪郭がブレて、今度は少女の死体に変わっていく。 今、腕の中にいるなまえそっくりな死体に。 それを厳しい表情で見据えながら、リドルは杖を向けて呪文を唱えた。 自らの弱点を暴かれた憤りをこめて。 「リディクラス!」 パチンと泡が弾けるような音がして、死体は血溜まりもろとも跡形もなく消え去った。 |