蛇と穴熊。 創立者の血をひく者同士。 運命だというならば、二人を繋ぐ糸は、まさしく血の色をしているに違いない。 「迎えにきた」 いっそ優しげな声音でそう告げたリドルの後ろには、物言わぬ無機物と化した老女が仰向けに倒れていた。 傍らに転がるカップ。 いつも眠る前にココアを飲む為に使われていた、ヘプジバのカップ。 そこから流れ出した濃い色をした液体には、果たしてどんな毒薬が混ぜられていたのだろう。 なまえと向き合って佇むリドルは、そちらを一瞥もしない。 生きていた間も、死体となってからも、その醜い老女は一度として本当の意味で彼の興味をそそった事など無かった。 彼が求める存在はただひとり。 真のハッフルパフの継承者たる少女だけだ。 ──いや、もう少女ではなく『女』か。 あの学び舎で共に過ごした日々の中、彼が女にした。 薄く笑って見つめるリドルの瞳が、赤い。 「どうした? せっかくあの強欲な魔女から解放してやったというのに、浮かない顔をしているな」 一歩退けば、リドルも一歩足を進める。 「…殺したの…?」 「何が悪い。あの女はお前の両親やお前が受け継ぐはずだった宝を横取りし、そればかりか、両親を喪ったお前をこの屋敷に軟禁していたのだろう」 リドルの優しい笑顔が怖かった。 彼は怒っているのだ。 卒業後、彼の前から姿を消した自分に。 そうせざるを得ない状態にしたヘプジバに。 そして、ヘプジバは死んだ。 今度は自分の番だ。 「逃げるな」 叩きつけるようにして壁に押し付けられ、息が詰まる。 顎を掴まれ、噛みつくように口付けられる。 触れた場所から、彼がどんなにか飢えていたのかが、痛いくらいに伝わってきた。 こんなにも求められていたのかと戸惑うほどに、一途な想いを突きつけられる。 「僕と来い、なまえ。僕の傍以外で生きる事も死ぬ事も許さない」 Dead or Alive(生か死か)。 この傲慢な男は、そんな単純な選択肢すら与えてくれないのだ。 リドルはひどく愛おしげな仕草でなまえをかき抱き、溢れる涙をそっと拭った。 老いた屋敷しもべ妖精に魔法をかけて記憶を改竄したリドルは、片腕になまえを抱いて屋敷を後にした。 もう片方の手には、二つの宝が収められた箱が握られている。 スリザリンとハッフルパフの遺物が収められた箱が。 行き着く先は、血塗られた至高の楽園。 |