ひび割れたステンドグラスから斜めに差し込む光が男の横顔を照らす。 思い出の教会は既に無人となり、うち捨てられていた為に荒れ果てていたが、『死喰人』と呼ばれる彼の手の者達によって、葬列の鐘の音を虚ろに響かせていた。 「誓い通り、トム・マールヴォロ・リドルはお前にくれてやる──お前が愛した男、お前を愛した男は、永遠にお前だけのものだ」 死が二人を分かつとも、愛するのは唯一人だけと誓ったからな、と笑う。 いつかまた出逢えるかもしれない、と希望を捨てられずにいる自分の甘さを切り捨てる為に、彼はある魔法を実行するつもりでいた。 彼の野望には『愛』などという生温い感情は邪魔になるだけだ。 ──それならば。 教会から出て来た男からは、一切の温もりが消え失せたかのように、ゾッとするような冷気が立ち上っていた。 行くぞ、と短く呟き歩き出した男の後を、無言のまま仮面を被った集団が続く。 ──それから少しして。 今度こそ完全に無人となった教会のドアの隙間から、一匹の黒猫が滑り出て来た。 ルビー色の目をした黒猫は、名残を惜しむような眼差しを教会の中へと向けた後、やがて身を翻して、暗い森の中へと姿を消した。 それは、トム・リドルという青年の『愛』と『記憶』の化身である黒猫。 不思議な力で未来へと跳ばされた愛しい少女との再会のときは、今はまだ、遥かに遠い。 |