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「ダメだ。帰れ」

ホグワーツの地下牢付近から玄関ホールへ続く階段は石造りなので、夏でもひんやりしていて涼しい。
その冷えた空気よりも冷たい声に、何事かと振り返った生徒達は皆一様に目を丸くした。
黒いローブの裾を翻し、長いコンパスで颯爽と階段を上がって来るのは、校内一の有名人トム・リドル。
その小脇には一人の少女が抱えられており、ジタバタと暴れていた。
まるで荷物でも運ぶかのように少女の腹あたりに腕を回して軽々と持ち歩くリドルに、気圧され生徒達が次々と道を開けていく。

「いやっ、離して!私も残るんだからッッ!」

「用も無いのに夏期休暇中に学校に残る馬鹿がいるか。例え許可が出ても僕が許さない」

彼は一緒に学校に残ると駄々をこねるなまえを強引に連行しているところだった。
その後ろを魔法がかけられたトランクが半ば宙に浮きながらついてきている。

「余計な心配などせずに、大人しく家に帰れ」

駅へ向かう馬車に無理矢理詰め込まれ、イヤイヤと首を振るなまえ。
何か文句を言おうと開きかけた唇は、だが、素早く重ねられたリドルの唇に塞がれてしまった。

「楽しい休暇を」

笑みを浮かべたリドルの端正な顔が離れると同時に、バタンと馬車の扉が閉められる。
寂しいのと苦しいのとで、胸が締め付けられるような気持ちになりながら窓に張り付くなまえを乗せ、馬車はあっという間に走り出した。

一人、見送るリドルを残して。


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