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「…そういえば、スノードロップにはこんな伝説がある。エデンを追放されたアダムとイヴが、荒れ狂う吹雪に閉ざされた外の世界のあまりの寒さに震え、嘆いていた時、天使が現れてこう言った」

『大丈夫。もうすぐ暖かい春がやって来ますよ』

「そして、天使が舞い飛ぶ雪に息を吹きかけると、雪は小さな白い花に変わったそうだ。だから、スノードロップの花言葉は『希望』と言うらしい」

「希望…」

じっと聞き入っていたなまえの感心した声にリドルは苦笑した。

「馬鹿な話だ。エデンは神の作った楽園。その外は厳しい荒野の世界だと知っていたはずなのに、いざ楽園を追放されて嘆くなど、実に愚かだと思わないか?」

アダムもイヴも、禁忌を犯した時点で追放を覚悟していて当然のはず。
許されるとでも思っていたのか。
辛辣に唇を歪めるリドルに、だが、なまえは優しく微笑んだ。

「うん…でもね、その天使は神様に言われてアダムとイヴを慰めにきたんだと思うわ」

思わぬ解釈に、リドルが軽く目を見張る。

「二人は神様の子供なんだから、どんなに馬鹿な子で罰を与えたとしても、心配しないはずがないもの」

甘い、と感じながらも、どこか救われたような気分になった自分を誤魔化すように、リドルは低く喉で笑った。

「なるほど。飴と鞭か」

「もう!違うでしょ!」

思った通りの反応を示す恋人を、笑いながら抱き締める。

「ああ、そういえば、言い忘れていたが、この花の球根部分には毒性がある。一服盛れば、飲んだ者は目眩、嘔吐、下痢に苦しんで…」

「いやっ!トムの馬鹿!」

真っ赤になったなまえに背中をぺしぺし叩かれても笑いが止まらない。
そろそろからかうのも終わりにしようかと思った時、ふとリドルの脳裏をある記憶がよぎった。

「……なまえ」

腕の中で暴れていた少女を離して、その顔を覗き込む。

「な、何…?」

「もし、お前が僕から離れたいと思ったら──こら、大人しく聞け」

再びばしばし始めたなまえの両手を捕えて雪に押し付ける。

「もしもの話だ。──その時には、僕のところにスノードロップを持って来い」

いいな、と真摯な眼差しで見据えられ、なまえは仕方なく頷いた。

「…でも、そんな事、絶対思わないもの…」

「わかっている。離れたいなどと言い出したら、僕が許さない」

「……わがまま」

嬉しそうに緩んでしまう顔を、必死で怒っているように見せるなまえに微笑む。

「そんな事は初めからわかっていただろう」

きっぱりと言い切った言葉に反論が無いのは諦めているからか。
ひとつ深い溜め息をつくと、なまえはまだ紅潮したままの頬をリドルの胸に擦り寄せた。
甘えと愛を求める仕草。


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