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いま思えば、自分は彼女にちょっぴり恋をしていたのかもしれない。

しかし、お漏らしパンツを取り替えたり、ティッシュで鼻をチンしてくれたりした年上の女性を口説けるような度胸はランボにはなく、彼が幼児から少年になるまでの間になまえは他の男と結ばれてしまったため、淡く幼い恋心は憧れのままで終わったのだった。

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ボンゴレの持つ超直感、“見透かす力”で危険を感じとったのか、最悪の事態に陥る前に綱吉はいち早くランボをボヴィーノへと帰していた。

それから直ぐの事だ。
ミルフィオーレによるボンゴレへの攻撃が始まったのは。

かつて最強と謳われたボンゴレファミリーが、まさかこれほど呆気なく滅びるとは誰も思わなかったに違いない。
そして同時に恐怖を感じたはずだ。

本部の壊滅。
9代目の死。
散り散りになって逃亡した幹部達も次々と殺され、末端の構成員や親類縁者に至るまでボンゴレの関係者は容赦なく抹殺された。
勿論、ランボのよく知る者達も。

最後まで抵抗していた10代目の守護者達が倒されると同時に、ボンゴレファミリーは全滅したのである。
一人難を逃れたランボと、もう一人を除いて。


「へえ…君がなまえチャンの所の末っ子かあ」


白い悪魔は、悪意など微塵も感じさせない笑顔を震えるランボに向けた。

「怖がらないでいいよ、君は殺さない。生かしておいてあげる」

豪奢な椅子の肘掛けに頬杖をつき、にこにこと微笑むその姿は、ボンゴレを滅ぼして全てのマフィアの頂点に立った王者に相応しいカリスマ性に満ち溢れていたが、あるいは逆に大学のカフェテリアなどに座っていてもおかしくはないほど“普通”の青年にも見えた。
よくも悪くも、偉業を成し遂げた偉人という者は紙一重だということなのだろう。


(──許して下さい、ボンゴレ……なまえさん……)


蛇に睨まれたカエルの如く、身動きする事すら叶わずに、ただ仇敵を見上げることしか出来ない自分をランボは情けなく思った。

直ぐ目の前に仲間の仇がいるのに、どうすることも出来ない。
たとえ捨て身で攻撃を仕掛けたとしても、一矢報いる前に一瞬で殺されるはずだという確信があった。

「せっかく感動のご対面なんだからさ、もっと喜びなよ」

ね、なまえチャンと白蘭が傍らにいるなまえに笑いかける。
しかし、白蘭と同じく椅子に腰掛けた彼女は微動だにしなかった。
感情がまるで感じられない無表情のまま、ただランボを見つめている。

「なまえさん…」

ランボは顔を歪めて呻いた。
明らかに普通の状態ではない。
薬でも使われたのか、今のなまえからは彼女自身の意思というものがまるで感じられなかった。



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