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※年上夢主


私が初めて恭弥くんと会ったのは、恭弥くんが十歳のときだった。
当時私は二十歳。
大学の恩師と恭弥くんの親御さんが懇意の仲で、二人が話す間彼の子守を任されたのだ。
と言っても、実際には『子守』なんて全く必要なかったのだが。

「利発なお子さんだよ」という父の言葉通り、恭弥くんはとても賢い子供だった。
構内を案内する間も、はしゃぐわけでも緊張して萎縮するわけでもなく、飛び抜けた知性が伺える瞳で興味深く周囲のものを観察しながら、時々こちらがドキリとするような質問を寄越してきたくらいだ。

「あの人達は何をしにここに来てるの」

「それは勿論勉強だよ」

「遊んでいるようにしか見えないけど」

私から見ても悪ふざけとしか思えない事をやってゲラゲラ笑っている大学生のグループを冷ややかな目で見た恭弥くんに、私も「そうだね」と苦笑を返すしかなかった。

「一生懸命勉強してると、時々すごく馬鹿だなぁって思うような事をしてストレスを発散したくなるのかも」

「…ふうん」

そのときはまだ、何というか随分大人びた子だなぁという程度の印象だったのだが、その後色々あって、恭弥くんがどれほど規格外な存在なのか思い知ることとなったのだった。


***


「ねえ、ブラック・サンタって知ってるかい」

窓の前に置かれた執務机で、風紀の書類に鉛筆を走らせていた恭弥くんが唐突にそんなことを聞いてきた。

今日はクリスマスイブ。
この並中では終業式が行われたばかりだ。

恭弥くんは十五歳になっていた。
齢十五にして、もうすでに立派な並盛の支配者だ。
私はそんな彼のごり押しにより並中で教師をしていた。

「ドイツの伝承の? 黒いサンタとかブラック・サンタとか呼ばれてるみたいだね」

恭弥くんが目線で続きを促す。

「良い子のところには普通のサンタが玩具やお菓子を持ってきてくれるけど、悪い子のところには黒い服のブラック・サンタが来るんだって」

「黒い服だからブラック・サンタなのか」

「そう。それで、夜ブラックサンタがその子の部屋に忍び込んで来て、ベッドに動物の内蔵や血をぶちまけたり、大きな白い袋にその子を突っ込んで連れ去ったりするらしいよ。日本のなまはげみたいな感じかな」

「悪い子だと判断される規準は?」

「うーん…大人の言う事を聞かなかったり、他の子に乱暴したり、とか?」

「へえ…じゃあ、僕のところにも来るかもしれないね」

書類を書く手を休めて私の説明を聞いていた恭弥くんがサディスティックな笑みを浮かべた。

「それで、そのブラック・サンタとやらは強いの」

「来ても戦っちゃダメだからね恭弥くん」

彼は殺る気だ。



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