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何だか外が騒がしい。
廊下で誰かがふざけて遊んでいるのだろうか。
恭弥くんがみるみる不機嫌そうな顔になっていくのを見て、私は慌てて「ちょっと見てくるね」と応接室のドアを開いた。

その途端、何か騒々しい笑い声をあげている物体がお腹のあたりに飛び込んできた。
よく見ればそれは牛柄のツナギを着た小さな男の子だった。

「だからそこはダメだってランボ!ヒバリさんに咬み殺されるよ!」

後から飛び込んで来た少年のほうには見覚えがあった。
確か、沢田綱吉という名前の子だ。

「こら、廊下で遊んじゃダメでしょう。終業式は終わったんだからお家に帰りなさい」

「す、すみません…!」

ひたすら申し訳なさそうに頭を下げる様子は気の毒で胸が痛んだが、これ以上騒げば風紀委員長によって更に気の毒な目に遭わされるのは明らかだ。

いやだね、まだ遊ぶんだもんね、などと言いながら逃げようとした牛柄の子が、不意につまずいて転んだ。
その拍子に、モジャモジャの頭から大きな筒のようなものがニュッと突き出したかと思うと、そこから飛び出した何かがまともに私にぶち当たった。

ボフン!、と真っ白な煙に包まれて、一瞬何も見えなくなる。
身体が浮いた感じがしたと思った次の瞬間には足はちゃんと床についていた。
でも何だか感触がおかしい。

「真奈?」

男性の声が私の名前を呟くのが聞こえた。

煙が晴れ、その声の主らしき人物が見える。
和服姿の黒髪の男性が畳の上に座っていた。
それと同時に、私がいるのも畳の上で、辺りの景色も応接室ではなく何処かの和室らしいということも解った。

「そうか、そういえば君は10年前のこの日に10年バズーカに当たったんだったね」

男性は納得した風に笑った。
ドキッとするほど色っぽい。
勿論、女性的な色香というのではなく、男性らしい色気とでも言うべきものだ。

「あの、ここは…」

「まだ分からない?」

唇の端に微笑を引っ掛けたまま彼が言った。
その言い方や笑い方があまりにも恭弥くんに似ていて──……恭弥くん……?

「きょ…恭弥くん?」

「うん」

あっさり頷かれてしまった。
言われて見れば、確かに面影が残っているけれど、でも、

「ど、どうして大きくなっちゃったの?」

「10年も経てば誰だって成長するよ」

「10年って…」

「ここは君からみて10年後の未来にあたる。君は10年バズーカという道具に当たったせいで10年後の未来に来ているんだよ、真奈」

他の誰かにそんな事を言われても信じられなかっただろう。
でも相手は恭弥くんだ。
今まで彼の傍にいて色々な目に遭ってきた以上、あり得ない事だとは言い切れない。
ほんとに何でもありだな、恭弥くん!



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