雲雀恭弥が卒業すると聞いたとき、綱吉などは、「えっ!?ヒバリさん卒業するの!?」と本気で驚いていた。 それも仕方ないことだろう。 殆どの並中生が同じように考えていたに違いない。 群れるのが嫌いだからとトンファーで叩きのめしたり、学ランにリーゼントの不良達が風紀委員を務めていたり、それはもう無茶苦茶な暴君ぶりだった。 しかし、誰よりも並中を愛する彼は、母校を守ることにかけては誰よりも頼りになる男でもあった。 なんだかんだ言ってもこの暴君を生徒達は並中の王様として認めていたのだ。 その彼が去っていく。 この事実は生徒達に非常に大きな衝撃を与えた。 そうして迎えた卒業式の日。 卒業生代表としてステージ上の教壇に立った風紀委員長の「群れるな」という言葉を、在校生一同は深く胸に刻み込んだ。 雲雀なら卒業した後でも当然のような顔をして咬み殺しに来かねない。 男泣きするリーゼント頭の男達の前で、並中の支配者の堂々たる姿を真奈はキラキラした眼差しで見守っていた。 そして、式が終わるとすぐに雲雀を探しに走ったのだった。 「恭弥さん!」 呼びかけに応えて振り返る彼の姿を、今まで何度目にしてきただろう。 この学ランを着てこうして自分を振り返ってくれるのは今日が最後なのだ。 そう思うと、哀しいような切ないような気持ちになって胸が熱くなった。 「ご卒業おめでとうございます」 まずはご挨拶。 単なる乱暴者というわけではなく、実は育ちが良い彼は意外と礼儀を重んじる部分がある。 あくまでも彼なりの基準に基づいて、ではあるけれども。 年長者であるディーノに対しても、雲雀は一応それなりに礼儀正しくしている──ような気がする。 師匠として認めているかどうかはともかくとして。 「あの……」 途端にドキドキと高鳴りはじめた心臓の鼓動を感じながら、真奈は本題を切り出した。 「恭弥さんの学ランの第二ボタンを下さいっ!」 対する雲雀は、不思議そうに真奈を見つめていたが、ボタンと聞いてふと自分の学ランの襟元に視線を落とした。 真奈達のブレザーとは違うものの、旧制服である彼の学ランにも一応ボタンがついている。 ただ、雲雀は常に肩に学ランを羽織っているため、そのボタンは本来の役割を果たす事はなく、殆どただの装飾と化していた。 「こんな物が欲しいの?」 「はい!」 真奈はきっぱりと頷いた。 この学ランには数々の思い出が、“並中の雲雀恭弥”が沢山詰まっている。 勿論、そのボタンにも。 |