文化祭。または学園祭。 世間一般でそう呼ばれている行事が近付くにつれ、並盛中学の校内は慌ただしくなってきた。 学校行事の花形・一大イベントだけあって、この時期は準備期間からお祭り騒ぎだ。 廊下の端や教室の後ろには彩色途中の看板や木板が立て掛けられ、放課後ともなれば、校内のあちこちで準備に勤しむ生徒達の姿が見受けられた。 「当日の巡回ルートは以上の通りです」 開いていたファイルをパタンと閉じて草壁が報告を終える。 「危険と思われる場所にはポイントごとに見張りを置く予定ですが、いかがでしょうか」 「いいんじゃない、それで。ただし、あまり目立たないようにね」 「へい」 並盛中の文化祭における風紀委員の役割は、まさしく裏方だ。 私設警備員と言っても良い。 開催期間中、生徒が安全に過ごせるよう、校内を見回り、風紀を乱す者を取り締まる。 それが彼らの使命だった。 その長たる風紀委員長は、今日も応接室の玉座に背筋を伸ばして座り、部下がまとめたファイルに目を通していた。 暫し沈黙が続き、草壁は静かに待つ。 不備な点が無いかと重ねて問う事はしない。 特にダメ出しが無いということは、そのままGOサインが出たも同じことだ。 そうでなければとっくにトンファーによる制裁を受けているはずである。 その点は群れる弱者に対する時と同じくらい雲雀は容赦がない。 ──プツ、 校内放送が入る時の独特な音に続いて、静寂に支配された応接室に不意に明るい音楽が響き始めた。 草壁は時計を見て、それが昼休みに流れるお昼の放送である事を確認した。 もうそんな時間か。 「消しますか?」 スイッチ一つで放送はシャットアウト出来る。 草壁がそう尋ねた時、 『皆さんこんにちは。お昼の放送の時間です』 聞き覚えのある甘く柔らかな声がスピーカーから響き、草壁と雲雀は同時にスピーカーを見上げた。 もちろんそうしたところで少女の姿が見える訳ではないのだが。 『もうすぐ文化祭ですね。さて、今日の最初の曲は、CHERRY BLOSSOMの「CYCLE」です』 「…おかしいな」 執務机の上に頬杖をついて雲雀が呟く。 「あの子、放送委員じゃなかったはずだけど」 「は、はあ…」 曲の音量が徐々に上がっていき、邪魔にならないくらいの大きさに変わった。 少女の声はもう聞こえない。 雲雀は頬杖をついた姿勢のまま、静かに目を閉じた。 |