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「草壁さん!」

朝の登校時間、昇降口に次々と飲み込まれていく生徒達。
その群れの中に他の男子よりも体格の良い学ランの後ろ姿を見つけた真奈は、呼びかけながら彼に駆け寄った。

きっちりセットされたリーゼント頭をこちらに向けて振り向いた男子はやはり草壁哲矢で、真奈を見るとその強面(こわもて)に親しみのこもった微かな笑みが浮かんだ。

「おはようございます、真奈さん」

「おはようございます、草壁さん」

頭を下げて挨拶する。
見れば、周りの生徒も真奈同様に草壁に向かって頭を下げていた。
並中における風紀委員の権力が垣間見える光景である。

「わあ、凄くたくさん貰ったんですね!」

「いえ…これはすべて委員長宛のチョコレートです」

中身がどっさり詰まった大きな紙袋を見て感心する真奈に、草壁は苦い顔つきになって言った。

「毎年委員長の下駄箱に入れられる分をこうして回収しているんですが、次から次に投入されるので、朝から放課後にかけて何度も下駄箱と応接室を往復するはめになるんですよ」

「そうなんですか…」

真奈は紙袋の中に詰め込まれた大量のチョコレートを見た。
赤に金、緑にピンクと、色とりどりのリボンや包装紙でラッピングされたチョコレートの数々。
その数は、イコール、雲雀へと寄せられた女の子達の好意なのだと思うとちょっとショックだ。
何故なら真奈もまた雲雀に恋をしている少女の一人だからである。

「まあ、ファンが有名人にチョコを贈るようなノリなんでしょう。全部が全部、委員長を真剣に想ってというわけではないと思いますよ」

草壁がすかさずフォローする。

確かに今年も雲雀の下駄箱には大量のチョコレートが投入されていた。
しかし、数の割りに記名のあるものは少ない。
送り主の女子の名前が記されているチョコレートはごく僅かだ。
全体のニ割にも満たないのではないか、と紙袋に回収したそれらを見て草壁は目算していた。
チョコレートを送って雲雀に気持ちを伝え、あわよくば……と考えているのではなく、ただ雲雀への密かな憧憬や恋心を形にして届けたいということなのだろう。

「本当にその気なら、委員長のような方には直接特攻をかけるほうが好印象を与えるでしょう」

「確かにそうですよね」

「ところで、真奈さんは……い、いえ、何でもありません」

委員長に渡すのですかと尋ねようとして、草壁は寸でのところで思いとどまった。
それは自分が聞くべき事ではない。

「それでは、まだ仕事があるので…」

「あ、はい。お疲れ様です草壁さん。また後で」

草壁とそこで別れ、真奈は自分の下駄箱の前で上履きに履き替えて教室に向かった。



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