真奈が自分の教室にたどり着くまでにも、そわそわと落ち着かない様子の男子や、渡そうかどうか迷っているらしい友人を説得している女子や、いつどうやって渡すか相談している女の子のグループを見かけたりしたが、教室の中はもっとお祭り騒ぎになっていた。 騒ぎの中心は、やはりというか、山本と獄寺だった。 野球部のエースで人気者の山本は、押し寄せる波の如く次々とやってくる女子達にチョコレートを渡される度、いちいち礼を言ったりして生真面目に相手をしてやっている。 そのため彼の周囲には常に人だかりが出来ていた。 「ついてくんなっつってんだろ!」 登校中から教室までずっとチョコレートを持った女子達に攻撃を受けてきた獄寺が、うんざりした顔で彼女達を追い払う。 いくら邪険にされても、「クールな獄寺君カッコいい!」とばかりにつきまとう女の子達に、獄寺はうっすらと恐怖さえ覚えているようだった。 「なんなんだ、あいつら…毎年毎年よぉ…」 昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴るなりぐったりと机に突っ伏した獄寺が呻く。 入れ替わり立ち替わりチョコレートを持ってくる女子達に囲まれるという状況が続いたせいで、昼休みになる頃には二人ともさすがに疲労を隠せずにいた。 「ハハ、なんか今年は去年より多い気がするな」 「二人とも貰えるだけいいよ。俺なんて今年もゼロだよ…」 苦笑いする山本の前で綱吉がため息をつく。 真奈は首を傾げた。 「あれ?お母さんや私からのは?」 「家族からのはノーカウント。貰った数に入らないって」 「京子ちゃんにも貰ってたでしょう?」 「…うん……義理チョコだけどな……」 綱吉はますます薄暗い空気を背負って、ずうぅんと沈みこんだ。 触れてはいけない部分だったらしい。 「あ、で、でもほら、ハルちゃんもくれると思うよ!放課後遊びに来るって言ってたし!」 慌ててフォローしたが綱吉は落ち込んだままだった。 どうもバレンタインの日には男の子は一段とデリケートな生き物になるようだ。 困ったなぁと苦笑してランチバックを手にした真奈は、獄寺と山本に綱吉を任せて教室を出た。 今日は応接室で雲雀と一緒にお弁当を食べる日なのだ。 |