「ジロウ!」

なまえお姉ちゃんだ!
家の角の向こうから現れたお姉ちゃんが僕に駆け寄ってくる。

「ジロウ…良かった…!」

なまえお姉ちゃんに抱きしめられた僕は、嬉しいのと悲しいのとで、くんくん鼻を鳴らして甘えた。


「家の中には誰もいませんね」

ふっと何処からか漂ってきた血の匂いに僕がギクッとして顔を上げると、黒い服を着て黒い帽子を被った男の人が目の前に立っていた。

知らない男の人だ。

いつの間に近くに来たんだろう?
足音も気配もぜんぜん感じなかった。


「赤屍さん…」

なまえお姉ちゃんが僕を抱きしめたまま不安そうな声で言った。

アカバネ。

それがこの男の人の名前なんだろう。

アカバネからはあいつらと同じくらい濃厚な血の匂いがした。
でも、アカバネはなまえお姉ちゃんの味方らしい。
なまえお姉ちゃんがアカバネを信頼しているのが僕にも伝わってきた。


「一体何があったんでしょうか?」

「他の家と同じく、室内には争った形跡と何人分かの血痕が残っていました。恐らく状況から見て、貴女のご家族は他の人々のように何者かに連れ去られたようですね」

心当たりはありますか?とアカバネが聞き、なまえお姉ちゃんは首を横に振った。
目には涙が浮かんでいる。
僕はなまえお姉ちゃんの顎に鼻を押し付けて慰めようとした。

そうか。やっぱり他の家の人もあいつらに連れて行かれてしまっていたんだ。

「そうそう、キッチンにこれがありましたよ」

アカバネが僕のドッグフードの袋をなまえお姉ちゃんに見せる。

「ご家族の拉致からどれくらい時間が経っているかはわかりませんが、私達が来るまでその犬は飲まず食わずで繋がれたままだったはずです」

「そう…そうですよね…有難うございます」

なまえお姉ちゃんは目元を腕で拭いて僕に微笑みかけた。

「ジロウ、ごめんね。よく頑張ったね」

なまえお姉ちゃんから水とドッグフードを貰って食べている間、アカバネはなまえお姉ちゃんとこれからの事について話しあっていた。


普通の人間の仕業ではない、とアカバネは言った。
ケイサツでは無理だろうとも。

「心配いりません。私がついています」

アカバネがなまえお姉ちゃんの頭を撫でた。

「とは言え、何か手がかりがあると良いのですが──」

すかさず僕はワンと吠えた。

アカバネとなまえお姉ちゃんが僕を見る。
僕は精一杯四本の足を踏ん張り、しっかりとアカバネの目を見据えて訴えた。

僕にはあいつらの匂いが分かる。
あいつらを追いかけられる。

アカバネは僕を見て微笑んだ。

「一緒に行きますか?」

僕はもう一度ワンと吠えた。

今度こそ皆を助けるんだ!


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