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(ツナさん、ピンチです…!)

三浦ハルは心の中で想い人に助けを求めた。
しかし、勿論、それで事態が好転するはずもない。

「だーかーらぁ〜、ちょっ〜とイイことしてくれればいいんだって」

いかにもチャラい外見の金髪男が言うと、彼の仲間達からゲラゲラと笑い声が起こった。
男達は前後を塞ぐ形で立ちはだかっているので逃げ場はない。

「嫌です」

きっぱり言い放ったのは、ハルを後ろに庇うように前に出た沢田真奈だった。
今日二人で買い物に出掛けていたのだが、運悪くタチの悪いナンパ師に絡まれてしまったのだった。

自分が彼らに従う事で片方を逃してくれるのなら、ハルも真奈もそうしていたかもしれない。
しかし、この連中はきっと二人とも見逃してはくれないだろうという事もわかっていた。

「なんでわかんないかなぁ〜。君達に選択肢なんてないの。わかる?」

状況さえ許せば、日焼けした顔いっぱいにニヤニヤ笑いを浮かべた男の顔を思いきりひっぱたいてやりたいくらいだ。
こちらを馬鹿にしたような口調で話しかけてくる男を真奈とハルはせめてもの抵抗とばかりに睨みつけた。

「ハルちゃん、電話」

男達の笑い声に紛れて真奈が小声で囁きかける。
そうして、ハルの身体を自分の真後ろに隠す位置に立って、正面の男からハルの手元が見えないようにした。
直ぐにその意味を理解したハルはこっそり携帯を取り出したのだが──。

「おい! そいつ、携帯持ってんぞ!」

(はひっ…作戦失敗です…!!)

目ざとく見つけられてしまった。
ビクッとして思わず携帯を取り落としそうになる。

「てめー…舐めやがって…!」

激昂した金髪の男が掴みかかろうとした、その時。

「うぎゃっ!」
「ぐわッッ!」

真奈達の背後にいた男達が突然バタバタと音を立てて倒れた。
驚いて振り返った先には、黒いコートを着た長身の男が一人。

「…ドカスが。てめえら、逝く覚悟は出来てんだろうな?ああ?」

ラテン系の西洋人だろうと思われるその男は、壮絶に不機嫌そうな顔をして低い声ですごんだ。
倒れた連中を無造作にブーツの底で踏みつけてこちらに向かって歩いてくるその姿はどう見てもカタギには見えない。

「はひっ! また怖い人が来ました! どどどどうしましょう!?」

「大丈夫。後から来たほうの怖い人は私の婚約者だから」

「はひっ!?」

真奈の言葉に驚いたハルは“後から来たほうの怖い人”を思わず二度見してしまった。
しかし、眼光鋭く凶悪な面相をした男と可愛らしい友人とが頭の中でどうしても繋がらない。

(どう見てもヤクザですけど…!?)

真奈とハルを押し退けたその男は、いきなり金髪の男を蹴り飛ばした。
それなりに体重があるはずの金髪の身体は文字通り吹っ飛んでいった。

しょせん不良と本職では次元が違う。
一応相手は一般人ということで10分の9殺しぐらいに手加減しておいたらしいザンザスが、あっという間に築かれた屍の山を前に振り返る。

「おい、サツが来る前に移動するぞ」

「うん。行こう、ハルちゃん」

(はひーッ!デ、デンジャラスですうぅーーッッ)

友人に手を引かれ、ハルはパニック状態のままその場から逃げ出した。



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