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異様な熱気に包まれた並盛神社の境内には、本殿へと続く参道に沿って所狭しと屋台が立ち並んでいた。

金魚すくい、ヨーヨー釣り、射的、焼きトウモロコシ、お好み焼き、チョコバナナ、アンズ飴、かき氷、ラムネ……。
誰もが『夏祭り』と聞いて思い浮かべる夜店は殆ど揃っている。

一年に一度の花火大会の日とあって、並盛町の全住人がやって来ているのではないかと思う程の盛況ぶりだ。

浴衣の襟元からすっきりと伸びた項(うなじ)を炙るのは、熱帯夜と呼ぶに相応しい暑気と白熱灯の熱。
蒸した空気の中に漂うのは、焼き物系の香ばしい匂いと甘い香りが入り交じった祭り独特の匂い。

それらにお祭り気分を盛り上げられ、真奈の頬にはほんのりと赤みがさしていた。

「なんだかわくわくするね」

人の波に流されまいとザンザスにぴったりくっついて歩きながら呟くと、ふんと鼻を鳴らす音が上から降ってきた。

それでも、嬉しそうににこにこしながら腕に縋られれば悪い気はしないらしく、見上げる先にある彫りの深い精悍な顔は随分と機嫌が良さそうに見える。
真奈にしても、この男の横柄な態度にはもう慣れっこだった。

今夜は二人とも浴衣姿。

ザンザスのは真奈が着付けた。
この日のために猛練習したのでそれなりに上手く出来たと思う。

何しろ彼は体格が良いからそれだけでも充分浴衣姿が様になるのだ。

発達した大胸筋のお陰で惚れ惚れするような分厚い胸板も、黒地に暗赤色の細い縦縞が入った男物の浴衣の生地越しに容易く見てとれる。
中途半端に胸元が肌蹴ているよりも、着崩さずきっちり着た浴衣に隠されていても尚はっきりとわかる逞しさのほうがよほど色っぽく感じられるのは何故だろうか。

ポンッ、という音が横から聞こえてきて、ザンザスの赤い双眸がそちらを向く。
そこにあったのは射的の店で、高校生くらいの男の子が数人、それぞれに銃を構えて棚に並んだ景品に狙いをつけているところだった。

「あれは射的って言って、玩具のライフルで棚に並べられた景品を撃ち落とすの」

「ガキの遊びか」

「うん、まあ、そうなんだけど」

馬鹿にしたように笑うザンザスに、真奈は苦笑を浮かべて頷いた。
それを言ったら、縁日の屋台などはお祭りのノリがあってこそ楽しめる子供騙しの遊びに過ぎないのだ。
チープな味に、少し高めの値段の食べ物もそうだ。
祭りだからこそ食べたくなる味とでも言うべきか。



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