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丁度良い温度になるのを待って、頭頂部から順にシャワーの湯をかけていく。

流れ落ちた湯が太い首筋から肩、逞しい胸板を伝い落ちていくのを見ながら、まるでギリシャの彫像のようだと思う。
男として完成された肉体を持つ者を前に、自分の成長途中の身体が情けなく感じられた。
女としてはまだまだ未熟な肉体。
それを目の前の男に育ててもらっている最中だ。

「ダメ。この後、9代目の所に行くんだから」

シャンプーをしながら、伸びてくる手をかわすのは至難の技だった。
隙あらば、ゼリーのように柔らかな胸を揉んだり、それよりもっと下の大事な部分に触れようとしてくる手を何とか止める。

「もう、ダメだってば」

ザンザスとセックスした後は暫くまともに動けなくなってしまう。
体格差とか体力差とか年齢差とかを一切考慮しない……いや、この男なりに多少は考えてはいるのだろうが、それでもやはり、される側はくたくたになってしまうのである。
だから今はそうなるわけにはいかない。

「9代目にチョコ渡して、猫ちゃん達と遊んで、帰ってきたら皆にもチョコ渡さないと」

「必要ねぇ」

「またそんなこと言って…」

シャカシャカシャカ
かしかしかしかし…

指の腹で頭皮を掻くように洗い、出会った頃と比べて長くなった前髪を後ろに撫でつけるように泡で洗っていく。
濡れて色が濃くなった黒髪はセクシーだけど、そして、ちょっかいを出されるうちにちょっとその気になりかけていたけれど、真奈は必死に誘惑を振り切った。

「流すから目を閉じてて」

あたたかい湯で洗い流されていく白い泡が、ぐるぐると渦巻きながら排水溝に消えていく。
ザンザスは大人しく瞑目したままだ。
手の平に湯を溜めるようにして、コプ、コプ、コプ、と後頭部も念入りにすすぐ。
続いて、スポンジにボディソープをつけて泡立て、逞しい肉体を上から順にごしごしと洗っていく。
ザンザスはされるがままだ。
こうしていると、いつも、大型の肉食獣を洗ってやっている気分になってくる。
普段どれだけ獰猛な男であるか知っているだけに、こういう姿は貴重だった。
心を許していないと絶対触らせてくれそうにない人だから、余計にそう思う。

「お前も洗ってやる」

「えっ、いいよ、私は」

昨日の夜お風呂入って洗ったし、と思いながらそう言うが、ザンザスはもう真奈からスポンジを取り上げていた。
首筋から優しく擦られてしまえば、もう拒否出来ない。
肩から腕、手の先まで撫でるように洗われたまでは良かった。
だが、必要以上にねっとりとした手つきで胸を洗われては真っ赤になるしかない。

「もう!ザンザス!」

「洗ってやっているだけだ」

そうは言うが、すごく悪い顔をしている。
胸の先端をぐにぐにと擦られ、スポンジを投げ捨てた手で直に胸を揉まれて、真奈は心の中で謝った。

9代目、ごめんなさい。
今日中にチョコ渡しにいけないかもしれません。

熱い唇を重ねられ、舌で口内を撫でられて。

諦めた真奈は、濡れた男の首に泡まみれの腕を回して縋りついた。


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