結局、9代目の所を訪れたのは夕方近くになってしまった。 「チョコレートをありがとう、真奈さん」 「すみません、遅くなってしまって」 「いいや、わざわざ渡しに来てくれて嬉しいよ」 好好爺の笑顔で言われて真奈は恐縮した。 遅れた理由が理由だけに、申し訳なくて仕方ない。 だが、しかし、その原因を作った当の本人は、ふてぶてしい様子でソファにふんぞりかえっていた。 その膝の上には蜂蜜色の猫が丸くなっている。 初めて見た時は小さな毛玉のような子猫だったのだが、随分成長したものだ。 「大分大きくなりましたね」 真奈が言うと9代目は笑顔で頷いた。 「早いものだね、子猫が成長するのは。人間の子供と同じだ。親が驚くほどの速さで大きくなっていく」 9代目の口ぶりからして、暗にザンザスのことを語っているのだろう。 確かに大きくなった。 立派な体躯に成長した息子を9代目は目を細めて眺めている。 「まあ、一時はどうなることかと心配したこともあるがね」 「あはは…」 そうだ。 こうなるまでに色々な事があった。 リング争奪戦もそうだ。 あの時はまさかザンザスとこうなるとは思っていなかった……と言いたいところだが、何となく予感はあった。 運命だったのかもしれないと思うこともある。 思い出を振り返っていた真奈の膝の上に、黒い何かが素早く飛び乗ってきた。 「ザンザス」 にゃあ、と鳴いたそれは大きな黒猫だった。 ザンザスと同じ名前なのだ。 ちなみに人間のザンザスの膝にいる蜂蜜色の猫は真奈という。 二匹とも9代目が名付け親だ。 「よしよし、いい子だね」 猫のザンザスを撫でると、人間のザンザスがぴくりと頬をひきつらせた。 「おい、浮気してんじゃねぇ」 「ザンザスだって、その子と仲良くしてるんだからいいでしょ」 ね、ザンザス。 黒猫に呼びかけると、にゃあと返事がかえってくる。 「帰るぞ」 ザンザスが猫をそっと退けて立ち上がった。 「真奈」 呼ばれたと勘違いした猫がみゃーと鳴く。 それを見下ろして、ザンザスは何とも言えない微妙な表情になった。 それがおかしくて、9代目と同時に噴き出して笑う。 「てめぇら…」 ザンザスは怖い顔で睨み付けてきたが、真奈は笑いながら黒猫を撫でた。 「大好きよ、ザンザス」 |