2/2 


結局、9代目の所を訪れたのは夕方近くになってしまった。

「チョコレートをありがとう、真奈さん」

「すみません、遅くなってしまって」

「いいや、わざわざ渡しに来てくれて嬉しいよ」

好好爺の笑顔で言われて真奈は恐縮した。
遅れた理由が理由だけに、申し訳なくて仕方ない。
だが、しかし、その原因を作った当の本人は、ふてぶてしい様子でソファにふんぞりかえっていた。
その膝の上には蜂蜜色の猫が丸くなっている。
初めて見た時は小さな毛玉のような子猫だったのだが、随分成長したものだ。

「大分大きくなりましたね」

真奈が言うと9代目は笑顔で頷いた。

「早いものだね、子猫が成長するのは。人間の子供と同じだ。親が驚くほどの速さで大きくなっていく」

9代目の口ぶりからして、暗にザンザスのことを語っているのだろう。
確かに大きくなった。
立派な体躯に成長した息子を9代目は目を細めて眺めている。

「まあ、一時はどうなることかと心配したこともあるがね」

「あはは…」

そうだ。
こうなるまでに色々な事があった。
リング争奪戦もそうだ。
あの時はまさかザンザスとこうなるとは思っていなかった……と言いたいところだが、何となく予感はあった。
運命だったのかもしれないと思うこともある。

思い出を振り返っていた真奈の膝の上に、黒い何かが素早く飛び乗ってきた。

「ザンザス」

にゃあ、と鳴いたそれは大きな黒猫だった。
ザンザスと同じ名前なのだ。
ちなみに人間のザンザスの膝にいる蜂蜜色の猫は真奈という。
二匹とも9代目が名付け親だ。

「よしよし、いい子だね」

猫のザンザスを撫でると、人間のザンザスがぴくりと頬をひきつらせた。

「おい、浮気してんじゃねぇ」

「ザンザスだって、その子と仲良くしてるんだからいいでしょ」

ね、ザンザス。
黒猫に呼びかけると、にゃあと返事がかえってくる。

「帰るぞ」

ザンザスが猫をそっと退けて立ち上がった。

「真奈」

呼ばれたと勘違いした猫がみゃーと鳴く。
それを見下ろして、ザンザスは何とも言えない微妙な表情になった。
それがおかしくて、9代目と同時に噴き出して笑う。

「てめぇら…」

ザンザスは怖い顔で睨み付けてきたが、真奈は笑いながら黒猫を撫でた。

「大好きよ、ザンザス」


 戻る  
2/2

- ナノ -