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「ねえねえ、これ、投げた後は食べていいんだよね!?」

枡の中に山盛りになった豆をキラキラした瞳で見つめながら銀ちゃんが尋ねた。
今日の節分用に、この喫茶店のマスターの波児さんが用意してくれたものだ。

「銀次……豆を食うのがメインのイベントじゃないからな?あくまでも、豆“で”邪気を祓うのが節分だぞ」

「分かってるって!」

豆から目を離さない銀ちゃんは、自分の数え年の分しか食べられないということをたぶん知らない。
教えてあげようかとも思ったが、どうせ後で分かる事だ。イベントが始まる前から絶望を与える必要はないだろう。

「あれ?でも鬼は誰がやるの?」

「それならもう頼んである」

その時、カランカラン、とドアに付けられたベルが鳴る音が聞こえた。誰かが来店した合図だ。

「おっ、来たみたいだな」

誰だろう、と目を向けた先には黒い──

「お久しぶりですね、銀次君、聖羅さん」

「んああああーーーっ!?」

「鬼は外!鬼は外!鬼は外っ!!」

銀ちゃんと私はビビりながら必死に豆を投げつけた。

「おやおや…随分熱烈な歓迎ですねぇ。しかし、私を追い払いたいなら、身体を貫通するくらいの威力で投げつけて貰わなくては…ね」

「ひいっ!」

赤屍蔵人という名の鬼は、二人がかりでの豆の弾幕をものともせずに店内に侵入してきた。
こんな恐ろしい鬼はいまだかつて見たことがない。

「違う違う、赤屍は鬼役じゃない。俺が頼んだのは笑師達だからな」

呆れ顔で説明するマスターの言葉も、我先に店の奥へと逃げ込んだ私達を安心させるにはいたらなかった。
どちらにしても赤屍さんは恐怖の対象だからである。

「MAKUBEX君からの依頼の品です。銀次君への差し入れだそうですよ」

「えっ、差し入れ?」

「節分だから恵方巻きを、という事でした」

「恵方巻き!?」

可能な限り赤屍さんから距離を取ろうとしていた銀ちゃんは、その一言であっさり身を翻した。
あんなに怖がっていた赤屍さんの手から大喜びで荷物を受け取っている。

「すごい!巻き寿司だぁーっ!」


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