「私、実は鬼なんです」 「えっ」 昔ながらの味と風情が評判の甘味処で向かい合い、注文した餡みつを食べているところだった。 突然、加々知がそんなことを言い出したのは。 「確かにSっぽいとは思ってましたけど…」 「否定はしませんが、そういう意味の鬼ではありません」 否定はしないのか。 聖羅は恐ろしさを感じつつも、「じゃあどういう意味なんですか」と尋ねた。 「そのままの意味ですよ」 加々知が被っていたキャスケット帽をちょいと持ち上げる。 すると、尖った耳と額から突き出した角が見えて聖羅はギョッとした。 が、すぐに笑顔になる。 「もう、またまたー。びっくりさせようとしてるんですね。引っかかりませんよ」 「いえ、本当に」 「本当に?」 「ええ、本当に。地獄で閻魔大王の第一補佐官を務めている鬼神です」 聖羅は悩んだ。 どうリアクションをとれば良いのだろう。 「私の本当の名前は鬼灯と言います」 「鬼灯さん?」 「はい、加々知は現世に視察に来る時に使う名前です」 「現世……視察……」 聖羅は頭を抱えた。 嘘をつくような男ではないが、真顔で冗談を言ったりもするお茶目な一面もあるのだ。 今回の告白をどう受けとれば良いのかわからない。 「彼の言っていることは事実ですよ」 「えっ」 突然目の前の壁に4本のメスがカカカカッ!と突き立った。 向かいに座っていたはずの加々知…鬼灯は、いつの間にか立ち上がっていて、聖羅の後方を見据えている。 メスを投げた人物を。 「その男から離れて下さい」 「赤屍さん!?」 運び屋の赤屍蔵人が聖羅の後ろで赤い剣を構えていた。 たちまち騒然となる店内。 だが、逃げ出す客はいなかった。 何かの撮影かドッキリ番組だと思っているようだ。 「また、貴女も妙な男に好かれるものですね」 鬼灯が言った。 「貴方に言われたくはありませんよ」 赤屍が言った。 「先ほどのメスによる攻撃といい、その剣といい、普通の人間ではありませんね」 鬼灯が言った。 「貴方こそ私のメスを避けるとは、相当な手練れのようだ」 赤屍が言った。 「聖羅さん、早くこちらへ」 「聖羅さん、私から離れないで下さい。あの男は危険です」 「聖羅さん」 「聖羅さん」 二人が声を揃えて聖羅を呼ぶ。 聖羅はむしろ一刻も早くこの場から逃げ出したくて堪らなかった。 |