自宅からかなり離れた場所にある公園までやって来たが、そこでもやはり見つからなかった。 この辺はいわゆる高級住宅街で、新宿の高層ビルがすぐ近くに聳えているのが見えるのに、辺りには豊かな緑が広がっている、都会の真ん中のオアシスのような場所だ。 ここならもしかしたらと思ったのだが…。 「どうしよう…」 途方に暮れ、ベンチに崩れ落ちるように座って呟いたとき、 「お困りのようですね」 背筋がぞくりするような甘くて冷たい男の人の声が耳に届いた。 はっと顔をあげると、すぐ目の前に、黒いコートを着た背の高い男の人が立っていた。 「助けて差し上げましょうか」 大きな黒い帽子の縁が落とす陰の下から、切れ長の双眸が私を見下ろしている。 口元には、淡い笑み。 「あ…あの…」 「ああ、これは失礼。私は運び屋の赤屍蔵人と申します」 「赤屍、さん…ですか?」 「ええ」 胸がドキドキした。 この人はどうして私に声をかけてきたのだろう。何が目的なのだろうか。 「怖がらなくても良いのですよ、聖羅さん」 赤屍さんが言った。 「私はずっと貴女を見てきました。貴女の力になりたいと思っただけなのです」 彼のその言葉を聞いて私は怖くて堪らなくなった。 怖がるなというほうが無理な話だ。 人気のない公園の中に不気味なカラスの鳴き声が響く。 赤屍さんの背後の木立から、バサバサと音をたててカラスの群れが飛び立った。 「私と一緒に来て下さい。きっと喜んで頂けると思いますよ」 「い、いえ…あの…」 私はベンチから立ち上がり、じりじりと後退った。 赤屍さんは動かない。 「ごっ、ごめんなさいっ…!」 私はその場から全速力で逃げだした。 |