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「──なるほど。そういう事情でしたか」

来る途中にペットショップで買ったミルクを貰った子猫は、今は赤屍の膝の上で丸くなり、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
意外にも赤屍は迷惑がる様子もなく子猫のしたいようにさせていた。
GBの二人がそれぞれ赤屍から離れた場所に座って珈琲を注文したので、自然と聖羅は赤屍の隣りに座る事になってしまったのだが、話の途中で子猫は自ら赤屍の膝に移りたがったのだ。
これも聖羅にとっては意外な事だった。
動物に好かれそうな男には見えないのに……。

テーブルにカップを置いた赤屍が、子猫から聖羅に視線を向けて微笑む。

「私が引き取って差し上げても構いませんよ」

「えっ!?本当ですか?」

「ええ。どうやらこの子猫も私を気に入っているようですしね。聖羅さんがそれで良いのなら、ですが」

「それは…もちろんそうして貰えたら助かりますけど、本当にいいんですか?」

聖羅は嬉しさ半分不安半分に赤屍を見つめた。
本当に大丈夫だろうか?
もし何か気に入らない真似をしたら、メスで子猫を──

「斬りませんよ」

「!? あ、いえ、あのっ、」

「そんな真似はしません。安心して下さい」

考えを読まれたと思った聖羅は余程怯えた顔をしていたのだろう。赤屍は楽しげにクク、と喉を鳴らして笑った。

「心配ならば、お好きな時にいつでも子猫の様子を見に来て頂いて構いませんよ。私もそうして頂けると助かりますからね」

「はあ……」

それは願ってもない申し出だった。
一緒に過ごしたのは短時間だったとはいえ、子猫にすっかり情が移ってしまっていた聖羅は離れがたく感じていたからだ。

「おい、クソバネ。テメェ、何を企んでやがる」

今までずっと傍観をきめこんでいた蛮が、カウンターの端から赤屍に冷ややかな声を投げ掛ける。
銀次は子猫が気になってしょうがないといった様子だったが、赤屍が怖くて近寄れないでいるようだった。
何しろ、構いたくとも当の子猫は黒衣の魔人の膝の上で寛いでいるのだ。

「企むも何も、言葉通りですが?」

赤屍は蛮の疑問に優雅な微笑を返した。
手袋に包まれた指で喉元をくすぐられた子猫が、甘えたように赤屍の手に頭を擦り付ける。

「しらばっくれやがって」と吐き捨てる蛮を余所に、赤屍は素知らぬ顔で子猫を抱いて立ち上がった。

「では、私はこれで失礼します」

代金をカウンターに置きながら、傍らの聖羅を見遣る。

「そうだ、これから時間はありますか? よろしければ一緒に来て頂いて、自宅の場所を教えておきたいのですが」

「あ、はい、大丈夫です」

「ではご案内しましょう」

「おい……!」

蛮と銀次が慌てて腰を浮かせたが、その時にはもう聖羅は赤屍に促されてドアの外へと出てしまっていた。
後悔先に立たず。
取り返しのつかない事態というものは、なってみなければわからない。
そしてその事に気が付いた時にはもう既に手遅れなのだ。


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