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「ちょっとぉー、可愛い子だからって手を出しちゃダメよ」

赤い顔でヘヴンが男を睨んだ。
顔が赤いのはかなり酒が入っているためだ。

「いけませんか」

「ダメに決まってるでしょ!アンタは物騒なんだから」

「ですが、案外そういう男性が好みかもしれませんよ?」

ねぇ?と笑顔で話をふられ、聖羅は曖昧な笑いで場を濁す。

「すみません、ヘヴンさんもう大分お酒入ってるみたいで…」

「私は酔ってないわよ!まだまだこれからなんだから!!」

「酔っ払いの常套句ですね」

男は相変わらず笑みを湛えたまま、ポケットからスマホを取り出した。
画面をタップして、たぶんアドレス帳を呼び出しているのだろう。
ヘヴンを宥めながら見ていれば、彼は誰かと通話を始めた。

「──来栖柾さんですか。ええ、そうです。ヘヴンさんの事なのですが……ああ、いえ、ご無事ですよ。お友達と飲んでいたようなのですが──ええ、お願いします」

通話を終えた男がヘヴンに微笑みかける。

「今すぐお迎えに来て下さるそうです」

「なっ……なんで勝手に呼び出しちゃうのよぉー!まだ飲むって言ってるじゃない!!」

「やれやれ…」

男は反対隣に腰を下ろした。

「お迎えが来るまでご一緒しますよ。一人では大変でしょう」

「すみません、助かります」

「そんな事言って、この子が気に入ったから居座る気なんでしょ!」

「問題ないとは思いますが、念のため連絡先を交換させて頂いても?」

「あ、はい」

「ほら!やっぱり!私をダシにして口説く気ね!ダメよダメ!連絡先教えたりしたら絶対ダメなんだからっ!」

連絡先を交換して解ったのだが、アカバネは“赤屍蔵人”という名だった。
速攻で迎えを手配してくれたり、一緒に酔っ払いの面倒をかって出てくれるなんて、意外といい人だ。
第一印象なんて案外あてにならないものなのかもしれない。

「騙されちゃダメよ!赤屍はホントのホントに怖い男なんだからねっ!!」

ヘヴンは光の速さで迎えに来てくれた恋人によって優しく問答無用で連行されていった。

「お疲れさまでした」

「赤屍さんも。有り難うございました」

「いえ、礼には及びませんよ」

赤屍とは短い間に何だか奇妙な連帯感が生まれていた。

「ところで、先ほどのヘヴンさんの話によると、自宅に出張マッサージをなさっているようでしたが」

「ああ、お得意様だけサービスでやってるんです。でも、赤屍さんならいいですよ。今日のお礼です」

笑って答えれば、彼はそうですかと微笑んだ。

「それは是非お願いしたいですね。お言葉に甘えて、近い内に連絡させて頂きますよ」

「はい、お待ちしてます」

「それでは…」

赤屍は革靴の音を響かせて夜の町の中に消えていった。
その後ろ姿を見届けてから、聖羅も反対方向に歩き始める。
終電にはまだ充分間に合う時間だった。


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