お風呂から上がると、身体が暖まったせいもあり、既に眠気を感じ始めていた。 疲れているんだな、と自分でも思う。 「もう眠そうですね」 そう言って笑ったのは恋人の赤屍蔵人だ。 今日明日と仕事が無いという彼は、ルームウェアでリラックスした様子で音楽を聞いていた。 立派なオーディオセットから流れて来るのは、これまたタイミングの良い事に、ブラームスの『子守歌』だ。 心地よさに包まれながら、それでも何とか眠気から意識を引き離そうと、「このオーディオセット凄いですね」と話を振ってみた。 ソファに座って長い脚を優雅に組んでいた恋人はクスッと笑い、視線だけオーディオに向けた。 「私が選んだ物ではありません。殆どの家具はこの部屋がモデルルームとして販売されていた時に使われていた物をそのまま使っているだけですから」 それで納得した。 シックで優雅なインテリアの数々はこの部屋の雰囲気にとてもよく合っていたけれど、独身男性向けではない気がしていたからだ。 たぶん、この部屋が公開されていた当初は富裕層の夫婦をターゲットにして販売されていたのだろう。 「聖羅さん、こちらへ」 赤屍が呼んでいる。 瞬きの回数が増えてきているのを自覚しながら彼のもとへ寄って行くと、ソファに横になるよう促された。 「え、でも…」 「耳掃除をして差し上げますよ。私の膝に頭を乗せて下さい」 そういえば、湯上がりにお湯で濡らしてから絞った即席ホットタオルで拭いてはいるけれど、ちゃんと時間を取っての耳掃除はここ暫くやっていない。 清潔を保てていればいいかなと、忙しさにかまけて後回しにしていた。 「さあ、聖羅さん」 「…はい」 おずおずと彼の膝に頭を乗せる。 彼はお尻は安産型だが、やっぱり太ももは男性らしく固く張りがあった。 でも痛くはない。 むしろしっかりと支えて貰える安心感があった。 「冷たくなっていますね」 耳に触れて赤屍が言った。 「耳掻きの前に軽くマッサージしましょう」 もみもみ。 まずは耳たぶを揉みほぐす。 爪を立てないように気をつけながら、親指の腹でツボ押しを兼ねて、きゅっ、きゅっ、と押す。 そして親指と人差し指で耳を摘まんでくにくにとこねるように揉む。 時々人差し指で軟骨の下あたりを軽く押してくれるのも気持ちいい。 そうされる内に次第に血行が良くなっていくのがわかった。 |